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しなやかで清らに生きた“美しい生活者”の半生

遺言のつもりで
伊都子一生語り下ろし


岡部伊都子

Now Printing


きものや陶磁器など、古来から受け継がれてきた手仕事の潤いを愛し、食べものをめぐる文章では、素材を育む一滴の水、一掴みの土に筆が及ぶ。旗を振って婚約者を戦争に送り出したことを今なお厳しく批判し続け、権力に対しては激しい怒りを辞さない。生涯、身に病を引き受ながら、筆一本で、最も弱い者としての強い視線を一貫して保ち続けた、岡部伊都子。その半生そのものが、我々への“遺言”

四六上製 304頁 2940円
2005年1月刊)
◇4-89434-497-1

〔愛蔵版〕 四六上製布クロス装貼函入
付・「売ったらあかん」しおり(著者印入)
304頁(口絵16頁) 5500円
2006年3月刊)
◇4-89434-499-8

【書評・紹介】

  • 4/5 読売新聞(夕)
  • 4/3 産経新聞
  • 読売ウイークリー 3/19号
  • 3/17 東京新聞(夕)
  • 3/12 北海道新聞

  • 【藤原書店PR誌『機』2005年1月号より】

    「ありがとう、ありがとう・・・・・・」

    岡部伊都子

    ぜったいに戦争は許せん
     わたしはイラクのことにしてもな、パレスチナ、イスラエル――ほんまのことはようわかりません。なにがどこへどうなるやら――。さっぱり、このおばあには、わからん。
     それだけに、人間一人ひとりが、おたがいに尊敬しあって、だいじにしあう以外にないと、そう思うてます。
     なんで対立して、殺しあって、たんとの人を殺さんならんの。
     あの戦争を経験してきたわたしとしては、もうぜったいに戦争は許せん。そやのに、また行きよる。またまた、あの人たちは、どないしたらよろしいの、ああ、どないしたらええか、教えてちょうだい。

    「戦争は間違っている」
     わたしのこの思いの根っこに、あのときの邦夫さんの言葉がある。あれを聞かなければ、今日のわたしはない、ない。
     邦夫さんはえらい人や。邦夫さんのおかげで、そういう考えかたがあるということを初めて知ったんやもの。あの戦争の最中に、戦争が間違っていると言うたんよ。
     きれいや、生き方として彼は戦争に反対、せやけど連れて行かれるわけよ、な。
     行きたくはなかったやろに、ラグビーの好きな人やったからな。だからラグビー見るたびに思い出す。両脚ふっとばされたから、ラグビーどころではのうなってしもた。どんなに生きたかったやろな。脚ふっとばされたから、自決しやったんや。
     邦夫さんの言葉――それを知らせることだけ、わたしの生きている意味、そう思うて生きていますのや。そういう若者がたしかにいたんだ、つくりごとやないんや。
     わたしは、戦争が間違っていると邦夫さんが言った意味が、わからへなんだ。だって、こっちは喜んで死なんならんと思うてたから。戦争が間違っているなんて聞いたことは、生まれて初めて。それが22歳の青年――少年というてもええくらいやけどな――それを言うときにはちゃんと、襟をただして、見習士官になってはったけど、それで戦争は間違うていると言える人が何人います?
     勇気をもって、この子にほんとうのこと言うておこうと思うたんやろな、天皇陛下のためになんか死ぬのはいやだ。本音や。ほんまにえらい人やと思うよ。それをこっちはわからなんだ。たしかに聞いたんやから、聞いたことは言わな、あかん。
     そういう志をもつ一人ひとりであってほしい。木村さん以外にも、そう考えていた人はいたやろけどね。反戦でも、それを表現するどころではなかったから、うっかり言うたら、牢獄へ入れられてしまう時代ですものね。
     市民の一人ひとりがそう思うてたらな、言える人は言い、行動できる人は行動し、叫ぶ人は叫んでほしい、それを聴く政治であってほしい。

    自分が解放されなければ
     また号令一下にしようと思うているやん。戦争を知らない人たちが、政治家になっていますものね。戦争の本質を知らへんからな。戦争の実態がわからんのかな。
     もうともかく、どこの国とどこの国とか、どの民族とどの民族とか、そういった敵対の様相をぜんぶなくしたい。敵対は差別ですよ。
     自分が差別から解放されなんだら、あかん。人間やない。
     年齢差別からも解放されたい。男女差別からも、もちろん解放されたい。その人がたずさわっている仕事についても、さまざまな差別があるやろ。恥ずかしいよ、人間として。なかなか解放されない。解放のたたかいが、自分のなかで、でけてへん。
     自分が解放されていかへん、既成観念にしたがう、そこから解放されんとあかん。それには、自分が自分を変えることや。育てることや。
    (おかべ・いつこ/随筆家)
    ※全文は『遺言のつもりで』に収録(構成・編集部)