2023年06月22日

月刊PR誌『機』2023年6月号 巻頭「映画『大地よ アイヌとして生きる』(主演・宇梶静江)全国で好評上映中」

 

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社主の出版随想

▼梅雨入りの季節だ。晴れた日が少ないし、今年は、線状降水帯なる言葉が頻繁に登場し、余りにも1時間単位で天気予報されるだけでうんざりだ。昔のように、「晴れ後曇り時々雨」ぐらいの報道が懐しい。この情報に皆が踊らされているのを思うだけで憂鬱である。日々、最先端のテクノロジーに囲繞されているわれわれ現代人。この先どこまで行くのだろう。
▼先日、人口動態の政府報告があった。わが国は、これからどんどん人口減社会になり、50年後には、半減すると。しかも、高齢化、少子化が進み、労働者人口も半減近くになるという報告があった。まずこの50年先というのが問題。今の殆んどの大人が生きていない。この推計がはずれても誰も咎めるものは居ない。今の社会、10年先の予測もできないのに、50年先にどうなると言われても大半の人間は関心がもてない。それが年中行事のように新聞紙面のトップを飾る。あまり嬉しくない展望なき報道に、読者は、暗澹たる気持にさせられる。
▼ゴールデンウィークから、10年ぶりに製作したドキュメンタリー映画「大地よ アイヌとして生きる」が好評だ。前作は、石牟礼道子の最後のメッセージ「花の億土へ」。東京のポレポレ東中野は、当初の2週間から6週間に。大阪のシアターセブンは、2週間から4週間に。来月は、札幌のシアターキノで。主演は、今年卒寿を迎えた宇梶静江さん。詩人であり、古布絵作家。この静江さんの人生を描く中で、これまでわれわれが失ってきた大切なものを思い出させてくれる。われわれは、自然の一部であり、大自然の中で生かされていること。これこそが、アイヌが最も大切にしてきた精神であることを。神に祈る(=カムイノミ)の儀式が頻繁に描かれる。「カムイは、すべてを観ている。だからアイヌ社会には、時効がない!」という言葉には、すべての観客はハッとさせられたのではないか。人間が人間を裁く現代社会。冤罪事件は止まるところを知らない。罪なき人が人生を台無しにさせられる。取り返しのつかないことを人間は繰り返して現在に至る。
 今こそ、「アイヌ精神よ、甦れ!」と叫びたい。(亮)

6月号目次

■宇梶静江主演映画『大地よ』全国で好評上映中
宇梶静江 「映画『大地よ』に寄せて」
吉増剛造、高橋源一郎、赤坂真理、河瀨直美、鈴木敏夫、佐々木愛、荻原眞子、大石芳野

■『パリ日記』全5巻、完結!
山口昌子 「パリ日記Ⅴ オランド、マクロンの時代」

■『金時鐘コレクション』第11巻 講演集Ⅱ
金時鐘 「境界は、内と外の代名詞」
姜信子 「新たな「産土」の詩のために」

■皇室史の全体像に迫る最新作
所 功 「立憲君主制を、今改めて考える」

連載山口昌子 パリの街角から6「マロニエのパリ」
    田中道子 メキシコからの通信3「週日毎朝の記者会見」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る42「ロシアが満洲に進出する」
    鎌田 慧 今、日本は50「でっち上げ事件」
    村上陽一郎 科学史上の人びと3「デカルト」
    小澤俊夫 グリム童話・昔話3「昔話には文法がある」
    方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える27「ふる里で認知症を診る」
    黒井千次 あの人 この人3「制服の人」
    山折哲雄 いま、考えること3「河上肇――長州のラスト・サムライ」
    中西 進 花満径87「目の話(4)」

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