2024年03月21日

月刊PR誌『機』2024年3月号 巻頭「後藤新平の『劇曲 平和』とは?――懸賞論文を書いた若き久米正雄」

 

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社主の出版随想

▼昨年の出生人口が、72万6千人と発表された。戦後のベビーブーム時の270万人からみると、3分の1を切って4分の1にならんとしている。出生率の問題は、国の将来を見通す根本的な指標になる。出生率の低下、出生数の減少から考察すると、わが国の将来は暗澹たる気持ちになる。
▼出生率から国の盛衰を読み込み見通したのが、エマニュエル・トッドだ。彼の20代半ばの頃の業績『最後の転落』でソ連の崩壊を預言した。その後、1978年に、エレーヌ・カレール=ダンコース女史が、イスラム教徒の急激な増大など宗教問題を絡ませて『崩壊したソ連帝国』を出版し、フランスでベストセラーになった。ソ連崩壊の13年前だ。この手法は、デモグラフィと呼ばれ、歴史人口学とも人口動態学とも訳される。社会分析に最も有効な科学的手法であることは、欧米の常識にはなっているが、わが国はこの手法で社会を分析する学者はまだ多くない。
▼フランスで1929年に『アナール――経済・社会・文明』という全体史の「歴史学」が誕生した。リュシアン・フェーヴル、マルク・ブロックが第一世代、それに続いて、第二世代にフェルナン・ブローデル、エルネスト・ラブルースらが居る。先日、亡くなったエマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ氏は、ル=ゴフらと共に第三世代の重鎮であり重要な仕事を残して来た。日本に最初に紹介した本『新しい歴史』の構成を見ると全貌がわかる。「動かざる歴史」「歴史における数量的なもの」「人口動態と社会」「気候 人間のいない歴史」「社会史における事件と構造」「農村文明」「新しい死の歴史」「危機と歴史家」……。これを見ても、今われわれが問題としているものはすべて入っていることがわかる。
▼もちろんこの中に、人口動態が入っていることは言うまでもない。この本をわが国に紹介したのが、1980年12月。それから43年も経っている。わがアカデミズムで、歴史や社会を分析するための有効な道具であることが今なお蔑ろにされているように思えてならない。イデオロギーに囚われている時代ではない。若い勇気ある学徒の湧出を期待したい。(亮)

3月号目次

■若き久米正雄が評した後藤新平『劇曲 平和』
久米正雄伏見岳人(解説・訳) 「後藤新平の『劇曲平和』とは?」

原 剛 「有機農業の先駆者、星寛治さんを偲ぶ」

■冒される琉球弧の島々のくらし
安里英子 「琉球 揺れる聖域」

■稀有の俳人・黒田杏子さん一周忌
「花巡る――黒田杏子の世界」 同刊行委員会

■活性化する「日本ワイン」、ワイナリー現地ルポ
叶 芳和 「ワイン産業は、「未来の新しい産業社会」の先駆け」

〈連載〉山口昌子 パリの街角から15「忘れ難い人」
    田中道子 メキシコからの通信12「AMLOの思想」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る51「『三国志』と『三国志演義』」
    鎌田 慧 今、日本は59「教師の悲鳴が聞こえる」
    村上陽一郎 科学史上の人びと12「木村資生」
    小澤俊夫 グリム童話・昔話12「破裂音の響く行列――南ドイツの謝肉祭3」
      方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える34「福沢諭吉の医療観」
    黒井千次 あの人 この人12「虚ろな兵士」
    山折哲雄 いま、考えること12「大坂なおみ選手の存在」
    中西 進 花満径96「無伴奏曲にふれて」

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