2023年08月22日

月刊PR誌『機』2023年8月号 巻頭「後藤新平の「大乗政治論」」

 

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社主の出版随想

▼今年も暑い夏である。体温を超える日が何日も続くと、ヤレヤレどころか、この先どうなるんだろうの不安が先に立つ。今8月8日。6日は、一日TVをかけ、慰霊式の実況を観たり、その後の「残留放射能」のドキュメントも観た。この国は、世界で初めてしかも唯一の被爆体験国なのに、核アピール、核廃絶をどうして世界に先駆けてやらないのだろうと思う。民間の被災者は、国連や世界にアピールしている方は少なからず居るが、日本という国家、政府がやるチャンスはこれまで何回もあったのではないか。
▼国家とは、国民の生命を衛るための組織であり、社会奉仕するための機関である、と後藤新平は語る。今号で、関東大震災時、内務大臣として復興院総裁として辣腕をふるった後藤新平が、震災1ヶ月後に、政治の「大乗政治論」を書き上げた。「政治とは何か」を、政治という国家運営、経営の最も根幹を語らざるを得ない状況が日本にあった。存在したのである。政治がどんどん国民から離反し、二大政党とはいえ、ひとりよがりの「わが党内閣」が議会を蹂躙している様子を見て、この機会に政治家や国民に訴えざるをえなかったのだろう、「政治とは何か!」ということを。
▼我々は、ヒロシマ、ナガサキはおろか近年フクシマも国民として体験した。先日の東京新聞の記事で知ったが、現在、世界には、12,099個の“核”が存在する。勿論、推定ではもっとあるかもしれない。その大半は、米ロに集中していることはいうまでもない。94%強だ。その核を使えば、この地球は、生命体はどうなるかは、言うまでもない。科学であり科学技術の進歩という競争が、しかも冷戦という戦争状態が、“偉大な科学者”という殺人鬼を近代世界の英雄に仕立てあげてしまった。名前は出さないが、そういう面々は、今もこの世界で有名人である。ヒットラーやスターリン以上の極悪人である。
▼核は、抑止力のために持つべきである、という議論もある。本当に抑止力のために持つべきか否か、今こそ国民一人一人が己れの全存在をかけて考えるべき時だ。我々は、今この時間を生きているのではない。40億年の尊い尊い生命を受け継いで生きていることをくれぐれも忘れぬことを祈念する。核により失われた生命に、合掌。(亮)

8月号目次

■大震災勃発1ヶ月後に国民に提示した政治論
「後藤新平の「大乗政治論」」(現代語訳、抄)

■子守唄は“いのちの讃歌”
鵜野祐介「世界子守唄紀行」

■「東と西」「自然と人間」の混淆の島
高橋美野梨「グリーンランド」

〈連載〉山口昌子 パリの街角から8「7月14日」
    田中道子 メキシコからの通信5「最大腐敗に勝つ」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る44「満鉄誕生」
    鎌田 慧 今、日本は52「防衛秘の恐怖社会」
    村上陽一郎 科学史上の人びと5「アンドレアス・ヴェサリウス」
    小澤俊夫 グリム童話・昔話5「昔話の話題」
    黒井千次 あの人 この人5「北京の学芸員」
    山折哲雄 いま、考えること5「サム・アルトマン氏とは?」
    中西 進 花満径89「目の話(6)」

7・9月刊案内/読者の声・書評日誌/イベント報告(後藤新平の会/『パリ日記』完結記念講演会)/
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