2023年02月24日

月刊PR誌『機』2023年2月号 巻頭「映画「大地よ」完成! 4月下旬ロードショー決定。」

 

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社主の出版随想

▼1月も終り、2月に入った。先日、久しぶりに家内を車椅子に乗せ、近所を散歩した。紅梅が咲き誇ってる光景はお見事という他ない程美しかった。蠟梅から紅梅へと、梅はわたしたちの目をいつまでも楽しませてくれる。それに較べ、桜は一瞬の華やかさはあるが、すぐに散ってしまうので、今のわが身には梅の方が有り難く感じられる。
▼久しぶりに上皇后様からお電話を戴き、数日前に赤坂の仙洞御所へ参内することになった。譲位されたのでもう少し警戒は緩やかかなと予想したが。お目にかかるのは、コロナ前の御誕生会以来か。鶴見和子さんの命日に集う山百合忌に毎年ご臨席賜って以来、もう15年以上になるか。お美しさと聡明さは以前とお変りにならない。コロナ禍の中、色んな方と出会ったり、外に出歩けないご不自由を語っておられた。特に、80歳台後半になってのこのコロナ禍は、ずい分おからだに堪えるのではないかと思う。
▼まず思い出深い話として、胎児性水俣病の方々とのこと。思い悩まれた末か、深夜お電話を戴いたことから始まった。公式スケジュールにはない中でその願いが成就され、「その節は本当にお世話になりました」と何度も口にされたことは、望外の喜びであった。「人生の思い出です」とも。スケジュールにない予定が水俣到着の前日に決まったのだから“奇跡”というしかない。
▼詩人とは何か、という話に話題は移った。わが社から出版している作家に、石牟礼道子や鶴見和子や金時鐘らが居る。特に金時鐘は、詩人とは、その人間そのものの存在であり、生き方が詩なんだ、と喝破する。拙は、その金時鐘の言葉が好きで、金時鐘とはお付き合いさせていただいている話をすると、「私は、石原吉郎という詩人が好きで、気になっている」とおっしゃられる。早速金時鐘氏に、石原吉郎のことを尋ねると、「自分も石原さんはお会いしたことはないが、尊敬する方です」と。人はつながっているなあ、としみじみ実感する。
▼最後に、この新しい時代は何を目標にして生きてゆけばいいのかという話になり、前世紀までの科学や科学技術中心の時代はすでに終わり、人間中心の時代も終わり、この新しい時代は、こういった発展、進歩という人間中心の“力”の時代から、この地球上に存在する多種多様な生き物と共にあることを忘れないで生きる時代に。しかも、人間以外の生き物から文明社会を照射する眼ざしが大切、と。アイヌ詩人宇梶静江の「大地よ」という詩を紹介した。「大地よ/重たかったか/痛かったか……」という東日本大震災の時に作られた詩を紹介すると、上皇后様は、にこっと微笑まれた。(亮)

2月号目次

■宇梶静江主演映画「大地よ」完成
独力で人生を切り開いてきた宇梶静江 四方田犬彦
「よい人間であるしかない」 町田康

■『宴』は何故生前に未完だったのか?
十九世紀最高の歴史家、ミシュレの転換点 大野一道
すべての生命体はひとつ J・ミシュレ

■政治的対立は、なぜ排除をもたらすか
自決と粛清 M・ビアール/小井髙志

■四地域の研究者による比較研究の最新成果
植民地化・脱植民地化の比較史 小山田紀子

■外部被ばくのみの過小評価をあばく
核分裂・毒物テルルの発見 山田國廣

〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える23「ガラスの城」 方波見康雄
    パリの街角から2「ノートルダム大聖堂」 山口昌子
    歴史から中国を観る38「唐詩に影響を与えた遊牧民の歌」 宮脇淳子
    今、日本は46「明るい未来」 鎌田慧
    花満径83「ミラクルな神業」 中西進

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