2022年08月24日

月刊PR誌『機』2022年8月号 巻頭「『アイヌ神謡集』を遺した知里幸恵の没後百年、記念出版!」

 

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社主の出版随想

▼「グレート・ネイチャー(大自然)」という言葉が、今重くのしかかっている。我々人類は、この大自然の中で生息している。大自然は、殆ど動かないゆっくりした時間の中で動いている。その中で数百万年前に誕生した人類は、自己保存のために急激な成長を遂げ、“文明”という武器を作り出し、自然破壊を繰り返してきた。人類に害を及ぼすものは、すべて害―、―害と名付け、排除する。最近、「共生」といういかにも響きの良さそうな言葉が闊歩しているが、大切なことは、大自然の中で生息させてもらっている謙虚さを持つことではあるまいか。
▼「グレート・ネイチャー」から「グレートジャーニー」を連想する。「グレートジャーニー」といえば、かつて医師であり探検家の関野吉晴さんのTV番組があった。名前だけ記憶にあったが、最近この映像を見る機会があった。四半世紀前に、この現代文明に大胆に挑戦してきた人。殆んど文明の利器を使わず、歩きと舟と自転車で、人類が誕生したといわれるアフリカを北上し、ユーラシアを渡り、アメリカ大陸を南下してきたコースを逆に辿る旅。やってみたいと思う人は居たかもしれぬが、実践され生きてゴールした人は、人類史上、稀有に違いない。
▼この“文明への挑戦”を、文明社会に生きる我々はどう考えたらいいか。自然を破壊し続け、人類以外の生き物を喰い尽し、それでも足りぬと、生き物まがいの物を作り生息する現代人。かくいう拙も毎日、何を食べてるか食べさせられているか知らない。殆んど養殖された物、人工添加物、防腐剤で塗り固められた食材が、スーパーやコンビニに所狭しと並べられる。これで、大自然の中で“共生”といえるだろうか。
▼今人類は、何を為そうとしているのか。もうすぐ、年中行事のヒロシマ、ナガサキ、そして敗戦の日がやってくる。メディアは77年来、毎年このことを放送して来なかったときはなかった。しかし我々は、このヒロシマ、ナガサキの原爆、被爆の真実を、敗戦の真実を学んできただろうか。原爆、被爆(曝)の内部被爆(曝)の問題が長く隠蔽され、70年以上たって明るみに出されようとしている。我々が科学(サイエンス)の美名の下に、科学技術(テクノロジー)を創り出し、便利で快適な生活を送る文明社会は、我々が本当に望んできた社会だったのか。これからもこの方向に向けて走り続けていいのかが、今問われている。(亮)

8月号目次

■『アイヌ神謡集』の知里幸恵、没百年記念
「新しいアイヌ学」のすすめ 小野有五

■「世界の中の日本」をダイナミックに描く
高校生のための「歴史総合」入門 浅海伸夫

■“天候”を愛し、振り回される「感性」の歴史
雨、太陽そして風 小倉孝誠

■19世紀パリ文化界の女王、マリー・ダグー伯爵夫人
新しい女 持田明子

■パリで書かれた、平成の『断腸亭日乗』 新保祐司

■武者小路公秀さんを偲んで 三輪公忠

〈リレー連載〉近代日本を作った100人101「清沢満之――仏教を普遍的な場へと解き放った仏教者」 藤田正勝
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える17「地域で共に認知症を衛る3」 方波見康雄
    歴史から中国を観る32「仏典はどう漢訳されたのか」 宮脇淳子
    今、日本は40「国葬―民主主義の葬送」 鎌田慧
    花満径77「神仙境としての吉野」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―72「ドル箱:『星の王子さま』」 加藤晴久

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