2022年09月21日

月刊PR誌『機』2022年9月号 巻頭「日中外交はどうあるべきか」

 

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社主の出版随想

▼今年の夏の暑さも厳しかったが、その厳しさも一段落をつげようとしている。しかし、ヨーロッパでは、干ばつや山火事などが多発し、地球は悲鳴をあげている。
▼強者による弱者支配や弾圧は、古今東西いまなお続いている現象である。その中でも“差別”“排除”の論理と構造は、簡単には変わらない。最近でも、アイヌの人骨の返還訴訟が取沙汰されていた。某国立有力大学が、実験、研究と称して、墓からアイヌの骨を掘り出し「保管」してきたというもの。その訴訟が起きてから少しずつ返還されてきているようだが、国家は、権力を使って、「学問研究」としてこういう横暴が許されてきたし、今なお続いているといってもいい。
▼「学問」とは、一体何であろう。「学問」とか「科学」とかいう言葉の前に、かつて学歴のない一般民衆は足すくみひるんでしまった。しかし、今や一歩引いて、この学問は、何のために、誰のためにあるか、を考える時代になってきた。その学問が、民を抑圧するためのものか、民を啓発し、幸いを自覚させてくれるものか、を考えるようになってきた。われわれの知識は、生きた知識でなければ有用でない。無用の長物という言もある。
▼この数年、アイヌの自覚をもつ方々とお附き合いしてきて、彼らの物の見方が、生活(くらし)に根差したものであることを発見した。われわれ学校で洋からの学問知識を身につけてきた者にとってまさに驚天動地の世界である。このことをアイヌ人初の学者になって、死に物狂いで説いたのが、知里幸恵の弟、真志保である。晩年、真志保はアイヌ(語)研究の和人学者を徹底批判して若くしてこの世を去った。真志保に次のような言葉がある。
 「アイヌ語もろくにわからぬ連中がマスコミの波に乗ってアイヌ研究を随筆化し、そのでたらめさにたえかねて私などがたまに真実をあばくと、やれ偏狭だの思い上がっているのだと袋だたきの目にあうのが現状だ。」(「『愛国心』私はこう思う」より 『毎日新聞』’60・11・18)
 恐らく真志保は、真の学問とは何か、を終生真剣に考えた人だと思う。真の「アイヌ学」誕生のために、知里真志保から学ばせて貰いたい。(亮)

9月号目次

■「日中国交正常化」50年
日中関係の回顧と展望 小倉和夫
日中国交正常化50周年と日中関係の未来 宮本雄二
日中関係50年、求められた理念のリセット 王 柯

■断面から世界を俯瞰する『1937年の世界史』
世界から見る第二次世界大戦前夜 宮脇淳子

■レギュラシオン経済学者による21世紀経済学批判
経済学の認識論 山田鋭夫

■加賀百万石の前田家の侯爵、初の評伝
陸軍大将・前田利為とは何者か? 村上紀史郎

■『戦争とフォーディズム』を出版して 竹村民郎

■「国境」問題にいかに向き合うべきか
東アジア国境紛争の歴史と論理 石井明

〈リレー連載〉近代日本を作った100人102「大村益次郎――近代的学知の受容と実践」 竹本知行
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える18「当事者・共感力」 方波見康雄
    歴史から中国を観る33「漢訳仏典が生んだ新しい漢字」 宮脇淳子
    今、日本は41「日韓海底トンネルの闇」 鎌田慧
    花満径78「神武天皇と禹」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―73「三人に一人、「移民系」」 加藤晴久

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