2021年04月26日

『機』2021年4月号

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社主の出版随想

▼世界はパンデミックで揺れている。日本でも然りだ。日本は欧米と較べ、人口における死者の割合は1/20というのに。先進国よりはるかに衛生環境が悪いと思われるアジア・アフリカ諸国での人口における死者の割合は、統計には現れていないが、恐らく欧米ほど死者の割合は高いとは思われない。今回のコロナ禍は、どうも文明社会へのウイルスの挑戦のように思われてくる。日々、感染拡大、店の営業時短、マスク・手洗いの喧騒……。とにかく気の休まる暇なし、が今の日本国民全体の気持ではないか。
▼不図、「水俣病」のことを考えた。1956年、水俣の地に突如発生した奇病が、チッソによる排水が原因であることが公式に発見された。まだこの病いに「水俣病」の文字は刻まれていなかった。ところが、わずか4年の間に、行政、専門家、最後にはメディア(マスコミ)によって、奇病は、「水俣病」という名で世間に流布するようになった。まるで、水俣という土地、大地の病いであるかのように。
▼行政、専門家、メディアによって、この社会が動かされていると、何か重大事件が起きるたびに気づかされる。行政、専門家、メディアの実態を国民が認識する努力を怠ると、現代社会は良からぬ方向に流されてゆく。そういう所にチェックをかけるのが民主主義であるのに、「民主主義=多数決」のように、数の多少で決定されてしまう現代社会。いつの間にか、今存在するものが、所与の前提として思考する社会。「疑う」ことを忘れてしまった現代人。かつて「すべてを疑え!」とマルクスは言ったが。
▼今、「ワクチン」を大量に生産し迅速に世界中に広めることで、このパンデミックを一日も早く収拾しようとしている人がいる。少々の犠牲はおかまいなしに。そんなに急がなくても、今の騒動は一旦収まるだろう。しかし、このウイルスとの闘い(ウイルスはそう思ってないが)は、これからも長く続くだろう、人類が絶滅するまで。わずか4、500万年の歴史しかもたない人類が、この地球上でわがもの顔で暴れ廻っている姿を想像して欲しい。人類以外のどの生き物も、それを見て歓迎するものは何ものもないということを。(亮)

4月号目次

■“アイヌの精神性”を訴える宇梶静江さん
アイヌ力よ! 宇梶静江
詩「アイヌ力よ!」/「言葉の力とアイヌ」

■「アソビごころ」がまちをつくる!
「風土自治」とは何か 中村良夫

■経済学説の盲点に潜むパラドクスを暴く
資本主義のパラドクスを読む 斉藤日出治

■熊楠の全体像と核心に迫る最良の書
熊楠を発見した鶴見和子 松居竜五

〈リレー連載〉近代日本を作った100人85「辰野金吾――〈美術建築〉を目指して」 河上眞理
〈新連載〉「地域医療百年」から医療を考える「社会へのまなざし」 方波見康雄
〈連載〉沖縄からの声 Ⅻ―1(初回)「京都大学による琉球人遺骨盗掘問題とは」 金城実
    歴史から中国を観る16「中国の何が問題か?」 宮脇淳子
    今、日本は24「BECO新聞」 鎌田慧
    花満径61「高橋虫麻呂の橋(18)」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―56「奴隷制と企業の責任」 加藤晴久

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