2020年12月21日

『機』2020年12月号

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社主の出版随想

▼今年を振り返ってみると新型コロナに世界が振り廻された1年ということになるか。そのコロナは、衰えをみせるどころか、まだ人間社会を騒動に捲き込みいつ果てるのかは予想がつかない。コロナとインフルエンザのダブルはないだろうが、いつ終わるという時期は明言できない、ワクチンの効果についても疑問符、おまけにこういうコロナ禍の状況は長く続きますよ、と専門家。
▼この騒動に、われわれ文明人が多大な関与をしていることだけは確かなようだ。100年前の2年余、世界に猛威をふるった、第一次世界大戦を終結させたともいわれるスペイン・インフルエンザ。世界で5千万以上、日本でも75万人の生命を奪ったパンデミック。一方、今回の騒動での死者は、現時点で世界で200万人、日本でも3千人足らず。ところが、経済や社会に及ぼす影響は、測り知れない。現在は、100年前の人口の4倍。これからこの何十倍、何百倍の死者が、この地球に生じるのだろうか。
▼11月下旬に、岡山の精神科医山本昌知氏に呼ばれ、小さな集まりに伺った。殆どウイルスに感染することはないだろうと思われる町でも、行政命令かメディアの呼びかけか、また自発的か、会場の方々はすべてマスクをしていた。先の山本医師は、精神病患者の開放病院を作られ、全国的に話題になった方。その日常を記録した映画『精神』は12年前に製作上映された。その山本医師も齢82を迎えられ、昨年この病院を閉鎖することにした。今春、山本医師夫婦の日常生活を描いた記録の映画『精神0』が完成した。前回同様想田和弘監督の手で製作された。
▼集まりの翌日、想田夫妻、山本先生らと食事の最中に、仏ナントから映画祭の金賞の栄誉に輝いたとの報せが入った。音楽も何も入らない、ただの動画を撮影して最低の費用で、という最も簡素な映画製作。それが選ばれたことに、本当に目頭が熱くなった。監督は大学を出てからニューヨーク在住24年の人物。何か大きな夢を抱いて生きてるな、という感じを受けた。このコロナ禍、下ばかり向いてないで、胸を張って大きな志を抱いて生きてゆこう、と励まされた気がした。ありがとう。(亮)

12月号目次

■〈特集〉今、なぜブルデューか?
20世紀民法学のたそがれ時に 大村敦志
ブルデュー『マネ、ひとつの象徴革命』余滴 稲賀繁美

■日本における「社会関係」としての食事の歴史
「共食」の社会史 原田信男

■「あしなが運動」に邁進する著者を支えた女性
愛してくれて ありがとう 玉井義臣

■生きる知恵に満ちたユカラを絵本と映像で
守り神、シマフクロウ 宇梶静江

〈追悼〉源了圓氏を偲ぶ 田尻祐一郎
    大城立裕さんを偲ぶ 川満信一

〈リレー連載〉近代日本を作った100人81「岡倉覚三(天心)――日本近代に迎合しなかった近代人」 木下長宏
〈連載〉歴史から中国を観る12「日本型の国民国家をめざす」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅺ―1(初回)「首里城炎上と江戸上り」 ローゼル川田
    今、日本は20「馬毛島」 鎌田慧
    花満径57「高橋虫麻呂の橋(14)」 中西進
    アメリカから見た日本12「コロナと放射能」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―52「「動物の条件」」 加藤晴久

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