2020年11月26日

『機』2020年11月号

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社主の出版随想

▼また2人の先達がこの世を去った。ひとりは、江戸の思想史研究者、源了圓氏。享年101。もうひとりは、沖縄初の芥川賞作家、大城立裕氏である。享年96。
▼源氏との出会いは、20年前に遡る。1999年、熊本近代文学館で横井小楠没130年の催しがあった。当時館長は、作家の永畑道子氏。鶴見和子氏の全集を刊行していた頃で、祖父後藤新平の思想に最も大きな影響を与えていた横井小楠が気になり、熊本を訪れた。館長の特別な計らいで、熊本在住の小楠研究の大御所、花立三郎氏をご紹介戴き数時間のレクチュアを受けた。この時、熊本に「横井小楠研究会」が存在することを知った。その後、何度か花立氏を再訪し、戦後初の「横井小楠全集」を作ることを決め、編集委員会を立ち上げた。熊本を本部に、福井、京都大阪、東京と各支部にも責任者を決め、編集作業が始まった。
▼この時の東京の中心が、源了圓氏だ。氏の業績はいうまでもないが、この頃齢80。熊本宇土の出身で、花立氏とは、戦前からの友人と聴く。何回か、東京や熊本で編集会議が持たれ、全体構想が決まり「全集」刊行に向けて着々と仕事は進んでいた矢先の2007年、花立氏の突然の死去と共に、この企画は頓挫し、源氏のご尽力にもかかわらず、遂に再生されることはなくなった。その後、氏の編集で別冊環『横井小楠――「公共」の先駆者』を、13年には、氏の畢生の大作『横井小楠研究』を出版した。氏の終始変らぬ暖かいご支援と小楠への熱い志は、今も忘れることができない。深謝。
▼大城立裕氏とは、約10年前のことだ。『環』誌で「『沖縄問題』とは何か」を特集した時、日沖関係を考える時のキーポイントは「琉球処分」にあるのではないかと直感し、『小説  琉球処分』という長編小説がある大城氏にインタヴューした。非常に冷静な眼をしている方というのが第一印象。「琉球は、小さな島国なので、隣の大国とヤマトのどちらにつくのが自国にとって良いかを常に考えてきた国です」「日本につくのが良いと決めたのは、日清戦争で日本が清国に勝った時ですよ」と。唸ってしまった。以来、今日まで交流させていただいてきた。合掌。(亮)

11月号目次

■〈特集〉「学問の自由」とは何か
どうだったら「自由」の侵害なのか 村上陽一郎
学問の自由 川勝平太
「学問の自由」の行方 石井洋二郎
矛盾・自由・代表 小倉紀蔵
学問のおもしろさとの出会い 三砂ちづる
学問が組織から自由になる日 今福龍太

■ブルデューの圧倒的主著、待望の普及版!
『ディスタンクシオンⅠⅡ』 普及版刊行にあたって 石井洋二郎

■ベートーヴェン生誕250年記念!
近代によって近代に勝つ 新保祐司

■革命と戦争の時代に展開された感情史
「魂の気圧計」を通した探究 A・コルバン

〈リレー連載〉近代日本を作った100人80「犬養毅――犬養のアジア主義」 姜克實
〈連載〉歴史から中国を観る11「日本の建国とチャイニーズ2」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅹ―3(最終回)「沖縄戦の遺骨収集と「戦死者の証言」」 安里進
    今、日本は19「矛と盾」 鎌田慧
    花満径56「高橋虫麻呂の橋(13)」 中西進
    アメリカから見た日本11「大統領がウソをつくたびにアメリカ人が死んでゆく」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―51「艾未未の警告」 加藤晴久

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