2021年01月26日

『機』2021年1月号

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社主の出版随想

▼重苦しい空気が漂う中、ともかく年が明けた。初詣客も例年とはうって変わって、控え目だったよう。暮れに浅草で2人の忘年会をしたが、街の通りには人影も少なく、いつもの混んでる店でもわれわれだけ。前月にも書いたが、これからはウイルスの本格的活動期。寒い乾燥状態では、インフルエンザの場合、毎年1万から2万、多い時には3万から5万人の死者。年明け早々首都圏では、自治体の長が政府に緊急事態宣言を要望。政府は受理し、8日から始まる。メディアの日々の報道で、殆どの国民は恐怖に曝されている。これからは、経済の悪化はおろか、自殺者やうつ病等の増大、種々の事件の発生で、社会はますます不安になってゆくだろう。
▼このさなか米大統領選挙が11月に行われ、民主党のバイデンが現大統領トランプを押えて僅少差で勝ったという報道。トランプ側は、これを認めず“不正行為”が多数見つかった、と裁判所に訴えた。しかし、裁判所はこの訴えを却下。この1月6日、数万人のトランプ支持者が、連邦議会を取り囲み、議事堂内にも侵入した、と。この民衆のエネルギーの凄まじさに圧倒された。その行動が、単なるクーデタなのか、新しい時代を築こうとする革命なのか、時間を待たなければならないが、要は、このコロナ禍の中、しかも米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、感染者2100万人、死者36万人(7日現在)の中で行われたということだ。凄まじいエネルギーを持つ新大陸アメリカを、改めて再認識させられた。
▼今日本では、政治家と専門家に関する議論があまりないが、こういう有事の時こそ、彼らの議論を国民の前に透明にして、政治家の役割、専門家の役割を明確にしなければならない。その際、専門家の専門知だけを集合させるだけではなく、それらを総合する総合知が必要になる。その総合知に基づきながら、各専門家の見識を活かしてゆく。スピード感をもって適切に対処する。それが政治家の役割と思うが、今のところそういう政治家は見当らない。
 かつて後藤新平が遺言で、
 「一に人、二に人、三に人」
と語った言葉が身に沁みる。(亮)

1月号目次

■新型コロナウイルス流行に揺れる列島へ!
新型コロナの行方とワクチン接種 西村秀一

■〝現役大往生〟から三年、画期的兜太論!
金子兜太――俳句を生きた表現者 井口時男

■大好評の名著、待望の新版刊行
いのちを纏う――色・織・きものの思想 田中優子

■アナール歴史学の重鎮が描く「寝室」の歴史
『寝室の歴史』を読む 持田明子

■映像作品『シマフクロウとサケ』DVD発売
人間がつくれない自然は、神さま 宇梶静江

■〈寄稿〉今、なぜブルデューか?
『ディスタンクシオン』と現代日本の「階級」社会 橋本健二
『芸術の規則』の問い 石井洋二郎

〈リレー連載〉近代日本を作った100人82「福田英子」 倉田容子
〈連載〉歴史から中国を観る13「『元寇』に遊牧民は参加したか?」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅺ―2「コザ暴動の炎」 ローゼル川田
    今、日本は21「日本の満洲」 鎌田慧
    花満径58「高橋虫麻呂の橋(15)」 中西進
    アメリカから見た日本13「戒厳令!?」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―53「ヴィーガン」 加藤晴久

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