2020年08月31日

『機』2020年8月号

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社主の出版随想

▼今月も、コロナ禍は世界で拡大の一途をたどっている。このコロナ禍は、地球生態系の異常からもたらされているようだ。地球温暖化の報が流れて早や30年を経過している。北極や南極の氷が溶け出し、異常気象による被害は続いている。大洪水、熱波……。それに人間による文明化の中での乱開発、生き物の絶滅種の爆発的増加、とにかく枚挙に暇がないほど、われわれを囲む生態系の異常は拡大の一途だ。この中での感染症の拡大である。
▼7月、今年度の後藤新平賞を、アイヌ出身の詩人であり古布絵作家の宇梶静江氏が受賞された。小社でも、宇梶さんの自伝をこの2月に出版したばかりである。齢87とはどうみても見えないお姿。肌の艶、声、眼力……どこからみても衰えはない。いつもしっかりとした足どりで大地をゆっくり歩いておられる。この数年、何度かカムイにまつわる話を聴いた。良きにつけ、悪しきにつけ、「噫々、これはカムイの仕業だね」と。水俣の杉本栄子さんの“のさり”と同じような使い方で。そのカムイに逆らって、現代人はカネと権力を恣に、地球のあらゆる場所や生類を破壊し侵し続けてきた。もうそろそろ目覚めても良さそうなのに、まだまだ欲望は失せず虐待は続いている、と。
▼宇梶静江さんは『大地よ!』の中で言う。
「大地よ/重たかったか/痛かったか
(中略)
その痛みに/今 私たち/残された多くの民が/しっかりと気づき/畏敬の念をもって/手をあわす」(亮)

八月号目次


■〈特集〉戦後75年を想う
天性の詩人、竹内浩三 編集部
「少年兵たちの連合艦隊」 小川万海子
次世代に伝えていくために 大石芳野

■「日本には二つの中心がある」
楕円の日本 山折哲雄・川勝平太

■アナール歴史学の権威が「寝室」を通して見る
寝室の歴史への招待 M・ペロー

■第一次大戦前夜……時代を予見するミュージカル
『後藤新平の「劇曲 平和」』を読む 加藤陽子

〈リレー連載〉近代日本を作った100人77「中江兆民――東洋のルソーの知られざる闘い」 鶴ヶ谷真一
〈連載〉歴史から中国を観る8「一国二制度」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅸ―3(最終回)「琉球語の復権を目指して」 波照間永吉
    今、日本は16「凱旋門伝説」 鎌田慧
    花満径53「高橋虫麻呂の橋(10)」 中西進
    アメリカから見た日本8「民主主義の危機を招く大統領」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―48「『芽むしり仔撃ち』」 加藤晴久

7・9月刊案内/読者の声・書評日誌/刊行案内・書店様へ/イベント報告(後藤新平の会)/告知・出版随想