2020年07月31日

『機』2020年7月号

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社主の出版随想

▼新型コロナ禍も、日本にニュースが入ってきて早や半年が経過した。この間世界では、欧米に中心が移り、瞬く間に燎原の火のように世界各地に広がっていった。7月上旬には、感染者も1千万を超え、死者も50万を超えた。まだまだ今の所、収まる気配はない。これからは、ラテンアメリカやインド、アフリカに拡大する様相を呈している。
▼この間、日本政府の緊急事態宣言、「自粛要請」の発令もあり、組織体の大から小まで、コロナ禍対策に追われ、「出勤停止」というところまで出てきた。小さな商店は言うに及ばず、飲食店やスナックまで殆どの店は休業が続いた。宣言が解かれて店が開店しても、すぐに元には戻らないという声をよく聴く。新しい商売のあり方を見つけないと難しいかもしれない。又、われわれにとっては、これまで考えなかったことを原点から問い直すことも1人1人求められているのだろう。
▼この間、“感染症対策”の名実共に第一人者と目される後藤新平の“衛生の道”について考える機会をもった。一体、いつから後藤は、この衛生について考えるようになったのか。1877(明治10)年の西南の役後の帰還兵の検疫に参加してからである。“(感染症の)危険の恐るべきこと弾丸より大なるものがある”という至言は、日清戦争後の帰還兵23万人を水際で止めるために、後藤事務官が児玉源太郎部長に提出した上申書の中にある言葉である。医学者であり、衛生学を学んできた後藤の視点は鋭く、かつ言葉は重い。
▼第一次世界大戦の死者は、世界で1千万人、その終盤から直後のインフルエンザによる死者は4千万人といわれる。日本では戦死者300人に対し、内地外地合わせたインフルエンザの死者は74万人であった。当時の世界人口は20億、現在は77億である。100年前には、前流行と後流行があり、後流行の致死率は、前流行よりはるかに高かった。この先、コロナパンデミックがどういう展開を見せるか、今の科学では予測することはできない。それ程、ウイルスという存在は、人類に身近かで不可分な存在であることを、われわれは今、改めて知らされている。(亮)

七月号目次

  ■全著作〈森繁久彌コレクション〉全5巻完結!
遅いが勝ちの森繁久彌 片山杜秀
『森繁らくがき帖 はじのうわぬり』より 他
黒澤映画と“社長シリーズ” 黒鉄ヒロシ

■9ヶ国語に翻訳された認知科学の名著、待望の新版
赤ちゃんは、AIにない認知能力をもつ 加藤晴久

■外来の文化を取り入れる「駆動力」 待望の復刊
鶴見和子『好奇心と日本人』に寄せて 芳賀徹

■〈特別寄稿〉後藤新平における“衛生”とは 「国家の礎は、衛生にあり」 春山明哲
〈リレー連載〉近代日本を作った100人76「大槻文彦――『ランゲージ』と格闘した生涯」 長沼美香子
〈連載〉歴史から中国を観る7「新型コロナウイルスの死者数」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅸ―2「「琉球文学大系」の構想」 波照間永吉
    今、日本は15「曇天の日本列島」 鎌田慧
    花満径52「高橋虫麻呂の橋(9)」 中西進
    アメリカから見た日本7「日米マスク考」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―47「武漢の怪」 加藤晴久

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