2019年11月18日

『機』2019年11月号

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社主の出版随想

▼十一月に入り、今年も余すところ二ヶ月を割った。この所、夏の暑さが長引き十月まで暑い日が続き、秋晴れの日はめっきり減った。しかも今年は、九月から十月にかけて、台風がこれでもかこれでもかと東日本を広範囲に集中して襲い、復旧作業は大変だ。東日本大震災以上の被害との報もある。災害大国日本は、これからどうなるのだろう。先人の知慧の助けを借りねばならない。明治以降の急速な近代化、西洋化の下に、それ以前の学問や生活を排してきたわが国。この災害にどう対応していけばいいのか。 ▼緒方貞子さんが十月二十二日逝去され、メディアも大きく報道した。緒方さんとは、何度かおめにかかっている。一度めは、上智時代の僚友、鶴見和子さんとの対談の席。二度めは、後藤新平の会主催の後藤新平賞授賞式で。三度めは、後藤新平の会に来賓としてご出席いただいた時である。又、上皇后さまともお親しかったので、お誕生会の席上何度かお顔を合わすことがあった。 ▼対談でも感じたことだが、緒方さんには、ある強い信念をお持ちで、その信念は世界に開かれた揺るぎないもの、今これを誰かがやらねばならないのなら自分が率先してやる、やり遂げるという静かだが底知れぬ力を感じた。恐らく和子さんも、その迫力を対話の中でも感じておられたに違いない。九歳違いだが、自分は囚われの身、相手は世界中を走り廻り、地球の裏側からも彼女の到来を待ち焦がれている人々が沢山いる。その方が、自分のために大切な時間を使ってくれていることに対して、本当に恐縮しておられた。 ▼後藤新平賞授賞の連絡を差しあげた時、「私のような現役が戴いていいの?」と問われた。受賞者は、李登輝元台湾総統、鈴木俊一元都知事ときていたので。「勿論です」と応えて了承されたが、その気の配り方は、一通りではなかった。緒方さんの曾祖父犬養毅と鶴見さんの祖父後藤新平との関係も「外交調査会」設立以来、ただの関係ではなかったが、先のご両人の関係も、学問は言わずもがな、生き方においてもお互いいいライヴァルとして在ったのだろうと思った。ご冥福をお祈りする。合掌(亮)

一一月号目次

■都市研究の大家による、最高の都市論、遂に発刊! 『都市と文明』発刊! P・ホール ■自然と人間の共生への根本思想 「風土学」とは何か A・ベルク+川勝平太 ■ビーアド“アメリカ外交”三部作の端緒の書 「大陸主義アメリカ」の外交理念 開米潤 ■崩壊した「中国システム」とEUシステム 荻野文隆 〈特別寄稿〉日本人のノーベル賞受賞に思う 市村真一 巨大電力会社が「原子力の深い闇」を拡大 相良邦夫 〈リレー連載〉近代日本を作った100人68 「益田孝――自転車で富士山を登る男」 由井常彦 〈連載〉今、中国は4 「党国体制と「人民」」 王柯     今、日本は7 「厚い皮膚と強い心臓」 鎌田慧     『ル・モンド』から世界を読むⅡ―39 「歴史を書き換えた政治家」 加藤晴久     花満径44 「高橋虫麻呂の橋(1)」中西進     生きているを見つめ、生きるを考える56 「一人一人に応じてつくられ、はたらくタンパク質」 中村桂子     国宝『医心方』からみる32 「コンニャクの身体の内外への薬効」 槇佐知子 10・12月刊案内/読者の声・書評日誌/イベント報告(『全著作〈森繁久彌コレクション〉』発刊/D・ラフェリエール氏来日)/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想