2019年08月22日

『機』2019年8月号

社主の出版随想

▼また暑い夏がやってきた。夏が訪れる度に思い出されるのが、周囲の戦争体験者の声である。そして多くの体験者は口を揃えて、戦争は決してしてはいかん、と。わずかの人は、やりたくてやったのではない、と。仕方なくやった戦争もある。相手方が仕かけてきたり、まきこまれたり、止むなくやらざるを得なくてやったと……。

▼古来、人間(社会)は、戦を繰り返してきた。自己の所有物(領土、金……)を殖やすために繰り返し続けられてきた。科学やテクノロジーの発達により、より多くの人間と土地・建物を、一挙に壊滅できるようになった。陸や海での闘いなら、それ程一挙に大量にということにもならないが、空からの爆弾投下や絨毯爆撃ということになると話が違う。二〇世紀初頭、永年の人間の夢を叶える空中飛行の技術が開発された。その技術を獲得した後に行われた第一次世界戦争では大量の死者。その後の戦争は止まることを知らず、この百年余空中爆撃が、続けられてきている。

▼人間は、なぜ殺し合いをせねば生きてゆけないのだろう。どうして他者を、もっと寛容に赦し、扶助し、もやい合って生きてゆくことができないのだろうか。どうして大きな強い力(金と権力など)を持っている者が、弱い力の者(貧困、重度障がい者……)を苛めても何の心の痛みも感じないのか?

▼これを解く鍵は、人間が自らの傲慢さを自覚することができるか否かにある。人間は、生存するために他の生き物の生命を頂いてきた。ある時までは、そのことに感謝と祈りをし供養してきた。日本は、この二百年、西洋文明(力の文明)に触れてきてから、先祖代々伝統的に受け継いできた心を喪っていった。ここから〝生産力〟重視、〝成長〟重視の視点が現われ、今日に至っている。

▼生き物への優しい思いやりの心は、美徳として、日本が大切にしてきた伝統文化である。〝産業革命〟以来現在の高度産業化社会まで、労働を通して両性の単一化は急速に進み、心なき現代人の再生産となった。その速度はこの数十年、ITやAIの侵入で加速化している。暑い夏だが、今一度来し方をふり返ってみることも悪いことではないだろう。(亮)

八月号目次

■気候と人間社会の関係を描く記念碑的大著、発刊! 気候と人間の歴史 E・ル=ロワ=ラデュリ

■68年革命を経て、70年代半ばのフランスで誕生したレギュラシオン レギュラシオン理論 R・ボワイエ

■〈短期集中連載〉3 レギュラシオン理論とは何か(最終回) 資本主義の政治経済学 山田鋭夫

■歴史の推進者としての女性の真力を発掘した米歴史家 メアリ・ビーアドとの出会い 上村千賀子

■後藤新平は関東大震災から半年後、第二次大戦を予言していた 後藤新平著『国難来』を読む 鈴木一策

〈新リレー連載〉今、中国は1「ウイグル人の『思想罪』」 王柯

〈リレー連載〉近代日本を作った100人65「高浜虚子」 筑紫磐井

〈新スタート〉沖縄からの声Ⅵ―1「沖縄学の父・伊波普猷」 比屋根照夫

〈連載〉今、日本は4「あぁ、死刑大国!」 鎌田慧

    『ル・モンド』から世界を読む 「風刺画の受難」 加藤晴久

    花満径「大和し令し」 中西進

    生きているを見つめ、生きるを考える 「『睡眠負債』はどれくらい眠ると解消されるのか」 中村桂子

    国宝『医心方』からみる29「『二日酔に蜆汁は無効』説に想う」 槇佐知子

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