2005年07月01日

『機』2005年7・8月号:竹内浩三の楽書き詩集 よしだみどり

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「戦争は悪の豪華版である」と竹内浩三は書いた。大人が頭で考えた戦争で、生命を失うのは若者、という不条理。人を殺すくらいなら自分が死んだ方がマシと悩んだ日々も多々あったであろう。自殺のマンガはその心理状態の表れのように思える。すでに敗戦の色濃い時期に始まった学徒出陣。日本中のほとんどの学生が彼と同じ思いをしていたに違いない。
 藤原書店の藤原良雄氏から竹内浩三の詩集の挿し絵を依頼されたことは大変嬉しかったが、竹内の手作りの回覧雑誌のマンガを見て、何とか生かしたいと思った。
 出来上がってみると、そこには、暗い時代に一瞬でも周囲を笑わせ、自身も明るく生きようとした少年竹内浩三の楽書きの世界と、熱き涙をとめどなく溢れさせる、生命の光のような竹内浩三の詩の世界が同時に現れた。
 もしも彼が、十八歳で目標とした宇治山田中学の先輩小津安二郎のように、映画監督になっていたら、十五歳でマンガ家を夢見たその才能は、映画の絵コンテ作りに発揮されたことと思う。何と多くの人材を戦争は奪ってしまうのだろう。彼は敗戦のわずか数ヶ月前、斬り込み隊員としてのバギオで散ったという。

(よしだ・みどり/作家・画家)
※全文は『竹内浩三楽書き詩集』に収録(構成・編集部)