2006年07月01日

『機』2006年7月号:漢詩逍遙 一海知義

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「逍遥の歌」
 わが国には、戦前から戦後の昭和二十五年(1950年)まで、全国に八つの高等学校があった。今では旧制高校といわれているが、記憶を新たにするため、それらナンバースクールと呼ばれた八つの高校の所在地をしるすと、
第一 東京   第二 仙台
第三 京都   第四 金沢
第五 熊本   第六 岡山
第七 名古屋  第八 鹿児島
 それぞれの高校には、記念祭の時などにうたわれる「寮歌」と呼ばれる歌があった。「寮歌」のあるものは、当時の高校生だけでなく、世間一般の人々にも愛唱された。第一高等学校の「嗚呼玉杯に花うけて」、第三高等学校の「紅燃ゆる丘の花」などがそれである。
 戦後のある時期、私は京都の第三高等学校の生徒だった。未成年であるにもかかわらず、夜になると大酒を食らい、ボロボロの学帽、黒いマント、朴歯の高下駄をはいて、友人たちと肩を組み、「寮歌」を放歌高吟しながら京の街を練り歩いた。
三高の寮歌「紅燃ゆる」は、「逍遥の歌」とも呼ばれていた。

「漢詩」の世界を「逍遥」する
 「逍遥」とは、その発音 syou―you (中国音は xiao―yao)が示すように、二文字の語尾を同じくするオノマトペ(擬音語、擬態語)であり、「行きつ戻りつ」「ぶらぶら歩き」「散歩」の意である。
 ところで、本書の内容は多岐にわたるが、中国古典詩、いわゆる「漢詩」の世界を「逍遥」するものがすくなくない。そこで書名を『漢詩逍遥』とした。
 全体を六章に分け、それぞれにタイトルをつけて、各章の主たるテーマを示す。

漢詩逍遥
 書名と同じタイトルの本章では、古代から現代に至る中国と日本の漢詩、その多様な世界を、文字通り「逍遥」する。

河上肇を語る
 河上肇は、経済学者であるとともに、漢詩人でもあった。本章では、漢詩人河上肇の作品にふれるだけでなく、彼にまつわるさまざまなエピソードを紹介する。

陸游を読む
 陸游は、中国宋代を代表する詩人である。私たちは十余年来「陸游の詩を読む会」をつづけ、何冊かの本を刊行してきた。本章では、「読游会」と称するその会の活動内容を紹介しつつ、詩人陸游について語る。

漢字・漢語
 漢詩とともに、その骨格をなす漢字・漢語に、以前から私は関心を持ち、これまで折りにふれ、その諸側面について語って来た。本章では、過去と現在の具体的な諸例を挙げつつ、漢字で書かれた文字と言語について、いささかの議論を展開する。

帰林閑話
 「帰林閑話」は、私の停年退職後、藤原書店の月刊誌『機』(本誌)に連載し始めた随筆である。連載は今年で十三年目になり、百四十回を越えた。それらは、これまで刊行して来た随筆集に随時収録して来たが、今回もその第九十六回から一二二回までを収載する。

雑纂
 以上五つの章に収まらぬミセラニアスな短文を、ここに集めた。話題は、知人、友人、のこと、そして戦死した実兄の思い出や、過去の研究の回顧などにわたる。

(いっかい・ともよし/神戸大学名誉教授)