2019年03月01日

『機』2019年3月号


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【社主の出版随想】

▼三月の声を聴くと体全体が芽吹きを感じる。夏は冷房、冬は暖房という生活をしていると、いつの間にか自分の体が自分で調整できなくなっているのを感じるが、幼少期は暖房も冷房もなく、自然の中で生かされていた頃がいやに懐しい。

▼一人二人と惜しい方がこの世を去ってゆかれた。日本文学を愛され日本国籍まで取られたドナルド・キーンさん(『戦場のエロイカ・シンフォニー』二〇一一)、生物物理という新領域を拓かれた大沢文夫さん(『「生きものらしさ」をもとめて』二〇一七)……ご冥福を祈ります。合掌

▼石牟礼道子さんが逝かれて早や一周忌。都内で主催した集いには、多くの人に来ていただき満席。石牟礼さんとは四十年以上前からのお附き合いだったが、八六年晩秋、出口王仁三郎の霊魂が見守る大本教の亀岡熊野館での、イバン・イリイチさんとの深夜に及ぶ対話は、恐らく歴史に残るものだろう。

▼その後、二〇〇〇年に鶴見和子さんの希望で宇治のゆうゆうの里での対談に来ていただいた、二度も。その間に石牟礼さんの「全集」の企画が決定。二〇〇四年春から約十年かけて『石牟礼道子全集  不知火』(全一七巻別巻一)が完結した。先ず未完の「苦海浄土」を完結させること、それを第一回配本に。解説を池澤夏樹、加藤登紀子の各氏にお願いした。又この全集の解説は、これまであまり石牟礼さんとの関係がない方を選んで(初めて石牟礼道子を読むという方も含めて)新鮮さを出した。佐野眞一、今福龍太、赤坂憲雄、永六輔、町田康、河瀨直美、三砂ちづる、水原紫苑の各氏ほか。しかし売れ行きは厳しかった。この出版事情では仕方あるまいが、今遺しておくことが必ず後人の役に立つと思い、出版に踏み切った。

▼二〇一三年夏、ある事が起きた。鶴見和子さんが二〇〇六年急逝されてから、命日に山百合忌を催してきた。それまでにも何度かご来会戴いていたが、皇后さまがお見えになりたいとのお申し出。以前より石牟礼さんの皇后さまへの思いを聴いていたので、「来られますか?」と尋ねると「ぜひ行きたい」と。ドクターストップを押してでも、と。わずか三時間の邂逅だったが、石牟礼さんには特別に喜んでいただいたと思う。石牟礼さんから皇后さまへの便りは、拙が取り次いできたが、二度。どなたかが今、本や活字にされているように、自分の文章を送られたことは決してない。画と俳句のみである。お手紙の下書きは書いたが、どうしてもお送りすることが出きませんと。この間、石牟礼道子さんとお附き合いしてきて、石牟礼さんのお人柄を知る機会を得てきたので、不思議でも何でもなく納得できた。
▼天皇皇后両陛下の水俣胎児性患者さんとの出会いは、本当に突然、偶然の出来事。天の恵みとしかいいようがない。石牟礼さん、思いが通じましたね。良かったですね。(亮)

俳壇を超えた総合雑誌の創刊第二号「現役大往生」
兜太を語り、TOTAと生きる

想像を絶する傷を抱いてきた被爆者たちに向き合う
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日本近代史の視角 岩井忠熊

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金時鐘先生との出会いと「日本語への報復」 呉世宗

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