2019年01月01日

『機』2019年1月号


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【社主の出版随想】

▼フランスの土を一五年ぶりに踏んだ。日本の報道からして熱い、危険なパリを想像していたが、到着した十二月四日火曜日のパリは、意外に静かな佇まいだった。空港からパリのシャンゼリゼ大通りに入って凱旋門の周りを廻ったが、数日前の喧騒の跡形すらわからなかった。現地の方の話だと、あのデモは、土曜日だけなのでそれ以外は平常ですよ、とのこと。日本のメディア報道からは、「パリ燃ゆ」の状態じゃないかと思ったが、現実は違った。現在のように、メディアが海外の情報を逸早く報道することに生存を賭けているような時代は、その情報をつい鵜呑みにする。情報化社会の陥穽である。「百聞は一見に如かず」という諺もあるように、自分の目で見、観察することからすべては始まることを、今一度確認することができた。

▼三泊四日のパリの滞在は忙しかった。翌日は、「感性の歴史家」アラン・コルバン氏、歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏、レギュラシオンの旗手ロベール・ボワイエ氏夫妻と。久々の再会で、積もる話に花を咲かせたり大いに議論を楽しんだ。

▼六日は、アカデミー・フランセーズでの授賞式が午後から催された。十七世紀に創設されたというところだから入場も厳戒を極めた。その会議場には招待者のみ、撮影・録音禁止という厳粛な状況の中で式は進められた。駐仏日本大使も出席しておられたが、「招待がないと私もここに入れません」と。最初進行役による受賞者の紹介があり、その後、終身幹事長のエレーヌ・カレール=ダンコース女史によるアカデミー・フランセーズの歴史についてのスピーチがあった。その後、楽しいレセプションがあった。女史とは二〇余年ぶりの再会。齢九十近いかもしれないが、アカデミー・フランセーズの制服に身を包んだ女史は、姿勢も正しくまったく老いを感じさせない若々しさであった。最近『ドゴール将軍とロシア』を出版したと。プーチンについてどう思いますか?と訊くと、ニヤリとし、今書いている最中よと。楽しみである。傍らに、ケベックの国民作家ダニー・ラフェリエールが凛々しい制服に身を包んでにこやかに立っておられた。至福のひとときであった。〈続〉(亮)

アナール派を代表する心性史家の主著、遂に完訳!
決定版「死の歴史」をめぐって 立川孝一 1

甲骨文字「大」「邑」「山」から龍宮神信仰のルーツを解き明かす!
「琉球文明」から黄河文明へ 海勢頭 豊 6

戦艦「大和」「武蔵」空母「信濃」の最期に立ち会った少年の物語
「雪風」に乗った少年 小川万海子 10

フランスにおける病院改革から、何を学ぶか?
病院中心主義からの転換 原山哲 山下りえ子 12

短期集中連載・石牟礼道子さんを偲ぶ 11
魂のふれあいと手料理の味 米良美一 14

短期集中連載・金子兜太さんを偲ぶ 10
兜太と敵対しつつ親愛する 筑紫磐井 16

〈リレー連載〉近代日本を作った100人 58
「小泉八雲」平川祐弘 18

〈連載〉今、世界は Ⅴ―9
「プーチンもやり過ぎて失敗?」 木村汎 20

沖縄からの声 Ⅳ―9
「平安座の海の『シチ』の話」 海勢頭豊 21

『ル・モンド』から世界を読む Ⅱ―29
「頑張れ 日産」 加藤晴久 22

花満径 34
「君が代」 中西進 23

生きているを見つめ、生きるを考える 46
「神経から免疫へのはたらきかけ」 中村桂子 24

国宝『医心方』からみる 22
「ハレの日の赤飯と小豆粥」 槇佐知子 25

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