2006年03月01日

『機』2006年3月号:今、古代出雲に何が起こっているか 関和彦

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『新・古代出雲史』にこめた想い
 「古代出雲」と言いますと、出雲大社、そして神話を思い浮かべると思います。また遙か彼方の古代、何か幻想的な雰囲気を感じるのではないでしょうか。西暦2000年に入るその時に出版された『新・古代出雲史』も幸いにも増刷され、それも増補という形で再度世に出ることになりました。
 かつて筆者が『新・古代出雲史』に込めた想いとは、古代出雲の研究が単に過去への憧憬で終わるのではなく、現代の時間、生活、文化観を見直し、「便利は発展」とする歴史観を問い直すことにありました。出雲はそれが可能な地域なのです。


三十年以上のフィールドワークの結実
 『新・古代出雲史』は机上の歴史研究の成果ではなく、三十年以上、出雲の山野・海浜を含めてその大地を逍遙し、四季折々にふれて、古代の出雲世界へ螺旋状に歩きさかのぼり、徐々にまとめたものでした。それは現代社会において「古代出雲」の持つ意味を探し求める旅であったのかもしれません。
 『新・古代出雲史』では、出雲大社境内遺跡での古代における高さ四十八メートルの本殿を裏付ける巨大柱の発見を受け、出雲大社から筆を起こしました。そして大地に刻まれた歴史、地域住民の声に耳を傾けながら、できる限り地域に根ざした古代出雲、民衆の世界に照準を合わせ、『古事記』『日本書紀』『出雲国風土記』の神話空間を泳ぎながら、古代びとの生活空間、古代びとが思い描いた神話を再現することに努めました。その成果でしょうか、今までの古代史とは異なり、古代びとが実際に呼吸し、生活していた社会を描けたようです。
 それをさらに目に見える形にする為に、写真家の久田博幸氏の写真を豊富に掲載することもできました。文と写真が交互に織りなす空間は、より古代出雲を身近に感じて頂けたと思います。


巨大風力発電を目指す出雲市
 今回、増補として補章「五年後の古代出雲」を書き下ろしました。今、地球環境問題が表面化していますが、出雲では昨年、ラムサール条約に中海・宍道湖が登録され、県民の自然環境への眼差しが変わりつつあります。
 しかし、2005年に市町村合併で誕生しました新「出雲市」では「自然に優しい風力発電」を前面に出し、島根半島の楯縫の山稜に巨大風力発電二十六基の建設を目指しています。初版本から五年、出雲は再び開発、自然・景観・歴史環境保護の問題で揺れています。増補では、開発対象地である出雲国楯縫郡の歴史、神話を俎上に載せ、出雲大社本殿の築造、祭神の大国主神の巡行に深くかかわった楯縫の山稜の本姿を浮き彫りにし、古代出雲の歴史・神話研究に新たな波を起こしたいと考えています。その中から、千二百余年の出雲の歴史とともにあり、真に「自然に優しい」『出雲風土記』の姿が見えてくると思います。


(せき・かずひこ/共立女子学園・共立女子第二高等学校校長)