2018年09月06日

モードの誘惑

9/6 東京新聞夕刊 「大波小波」欄 【ユニクロ氏】

 一昨年惜しまれつつ急逝した山田登世子の膨大な遺稿から、モードとブランドに関わる文章を集成した『モードの誘惑』が藤原書店から刊行された。(中略)全盛期の登世子節が満載・キレ味鋭く大胆かつ魅力的で、まるで元気な著者の新著のようだ。(中略)「デオドラント文化の行方」では、強烈で濃密なものを回避する今日の「弱いナルシス」たちを論じ、ケータイなどを媒介した間接表現こそが、彼らのコミュニケーション形式であることを指摘している。二十年近く前の視点は現在まで見通している。
 ファッションを論じる者の第一の資格は「ミーハーであること」としながら、同時に哲学にジャンプしなければならぬと説く「誘惑論」の文章通りの、文化の哲学を体現した思想家だった。愛と理解に貫かれた、経済学者の夫君の編集が見事である。