2018年08月18日

竹下しづの女 理性と母性の俳人 1887-1951

8/18新潟日報【関悦史氏】

 坂本宮尾「竹下しづの女」(藤原書店)は<短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎>などの強烈な句で知られるしづの女の初のまとまった評伝。華麗な作風と悲劇的な生涯で知られる杉田久女に比べ、理知と意志性の勝ったしづの女は、その生涯が広く知られてきたとは言い難いが、その筆跡が通覧できるようになった。
 夫に先立たれ、女性へのさまざまな抑圧の中で生きたしづの女には社会性に富んだ句が少なくない。しかしそれをしづの女は、下からの抗議や怨念ではなく、<女人高邁芝青きゆゑ蟹は赤く><三井銀行の扉の秋風を衝いて出し>といった凛とした作品に仕立てた。現代の若い俳人たちにも貧困、子育ての困難といった形で「社会」はひたひたと迫っている。しづの女のやり方は、そのなかでいかに輝かしい句を成すかという点で、今大きな目標として立ち現れているのではないか。