2019年07月19日

中村桂子コレクション いのち愛(め)づる生命誌(バイオヒストリー)

❝生きている❞をやさしく語りかける中村桂子の世界を集成した待望のコレクション。

《本コレクションの特徴》

◉著者の思想と執筆活動の全体像、及びその展開を、わかりやすく示す。

◉単行本未収録の論考、随筆を集成するほか、多くの書き下ろしで構成する。

◉各巻のテーマにふさわしい解説を附し、著者の仕事を、来たるべき読者に向けて新鮮な視点から紹介する。

 

 

推薦のことば

よくわかった人  解剖学者 養老孟司

 中村さんはよくわかった人です。すごいなあと思います。子どもにもちゃんとわかるように語ることができます。ということは、本当によくわかっているということです。わかっているつもりで、わかってない。そういう専門家も多いですからね。いわゆる科学をなんとなく敬遠する人がいますが、そういう人こそ、この本を読んでください。大人はもちろん、子どもにもお勧めです。生きものの複雑さ、面白さがわかってくると思います。

しなやかな佇まい  作家 髙村薫

 「ひらく」。「つなぐ」。「ことなる」。「はぐくむ」。「あそぶ」。「いきる」。「ゆるす」。「かなでる」。科学と人間をつなぐこれらの柔らかな目次の言葉たちは、科学者である著者の全人生から発せられたものである。そのしなやかな佇まいは、今日の生命科学の知見が塩基の配列といったレベルを超えて拓いてゆく世界の広大さと、それを見つめる私たち人間の好奇心、そして日々生きて死ぬいのちの営みの凄さ、面白さのすべてを言い当てていると思う。

中村桂子先生について  児童文学者 松居直

 中村先生は、とても鋭い見方をする方。単に科学者というだけでなく、本当にいちばん本質的なところを、ちゃんと突く。しかも、男性ではなく、女性である。女性ならではの鋭さかもしれない。男女を問わず、このような科学者は、そんなに多くいるわけではないだろう。中村先生が、まどみちおさんの詩に共感し、生命誌として読み解き、その世界にこたえの一つを見つけられたことは、決して間違っていない。本には共感すること、教えられることが、いっぱいある。 私自身この年齢になってからも、考えたり学んだりするということは、幸せといえば幸せ。同時に今まで何をしていたのかと思うこともある。いのちを大切にする社会を提唱している中村さんの本は、そう気づかせてくれた一冊である。今、「いのち」ということを、子どもたちが深く知る、感じるということが、とても大切だと痛感している。中村桂子コレクションの中でも、特に『12歳の生命誌』は、大切なことを分かりやすく書かれた本で、子どもにも大人にも、ぜひ読んで欲しいと思う。

生命誌研究館での出会い  絵本作家 加古里子

 柄にもなく、地球生命の現状を知りたくなった私が、跳び込むようにJT生命誌研究館を訪れたのは、いつのことだったか。高槻市に創設されて間もないときではなかったか。記憶では、『人間』という科学絵本を書こうとしていた頃ではないかと思う。生命誌という観点に大いに興味を持ち、当時の館長の岡田節人氏と副館長の中村桂子氏から、単なる生命の展開ではなく、生命誌という観点に立つ扇形の展開図「生命誌絵巻」を見せていただいた。また、新しい見事な「生命誌マンダラ」の円形の図にも感服し、教示を受ける幸運を得た。中村桂子先生とは、それ以来の交流で、その後館長になられ、二〇一一年には対談もさせていただいた。得難い時間であった。いうまでもなく、生きる基本に「いのち」がある。それを生命誌という貴重な考え方で説く、中村桂子コレクションが発刊される。私が得た幸運を、皆様にも、ぜひにと願う。*ご生前に戴きました

響き合う中村桂子の言葉と音楽  ピアニスト 舘野泉


 中村桂子さんと対談をさせていただいた(『言葉の力 人間の力』収録)。二〇一一年三月七日に東日本大震災が起こる四日まえのことだった。東京でも雪が降り、その中を中村さんが我が家に来てくださった。私たちは人間のために世界は創られていると思いがちだが、人間中心のその考え方が独りよがりのものに思えた。生きとし生けるものが、みなそれぞれに生きている。どんなに小さなものも、大きなものも、何のためにか知らないけれど生きているのだ。そして、どこかで繋がっている。そんなことを語り合い考えた。毎年、季節が巡れば花が咲く。花を咲かせるものも、咲かせられないものも生きている。いつかは消えてなくなっていくけれど、死さえも生きて蘇るものとなっていく。そんな思いで、私の音楽も生まれ、一つ一つのピアノの音が昇り消えてゆくのを聴いている。中村さんの言葉と響き合っていると感じる。