2018年11月21日

幻滅 外国人社会学者が見た戦後日本70年


11/21 朝日新聞 「天声人語」欄

 「仏壇はありますか」「本家とはどんな付き合い方を」。先週93歳で亡くなった英社会学者ロナルド・ドーア氏は、占領下の東京で町内会300全戸をそう訪ねて回った。生活感覚の深いところで日本を分析しようと考えた▶当時の英国では、日本といえば警戒心が先に立った。「再軍備しないか」「軍国主義が復活するのでは」。日本人の心性や価値観を掘り下げて調べても関心は低く、研究成果を英国で刊行するのは至難のわざだったという▶その後も実地調査を重ねる。細部から全体を浮き彫りにする手法で迫ったのは、農村、工場、学校、労組など。企業では労使に「同じ釜の飯」意識があって、手で働くもの(従業員)と頭で働くもの(経営陣)に格差が少ないことを強みとして紹介した▶おりしも日本経済の驚異的な成長が注目を呼んだ時期である。年功序列や終身雇用の功罪両面に触れつつ、「企業社会」日本を多角的に分析した▶長く「日本びいき」を自称したドーア氏だが、80年代半ばからは違和感を隠さなくなった。日本の会社に英米流の利益至上主義の色が目立って濃くなったころだ。社員の給与を削って役員報酬を引き上げる姿を「日本型資本主義の終焉」と嘆いた▶『日本の農地改革』『学歴社会 新しい文明病』『誰のための会社にするか』『日本の転機『幻滅』。主著を並べるだけで、戦後日本の浮き沈みが通覧できる。70年の長きにわたり、短所も含めてこの国を論じた筋金入りの「知日派」であった。