2026年02月25日

月刊PR誌『機』2026年2月号 巻頭「今甦る、後藤新平の処世訓」

 

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社主の出版随想

▼酷い時代になった。20世紀に入るや、これまでの生活のリズムに破綻をきたした。しかし人々は、便利で快適な生活を追い求め積極的に受け入れていった。科学と科学技術の進歩として。後半に入ると、一部の人だけの受容ではなく、大衆の受容熱も高まり瞬く間に、その勢いは燎原の火の如く、世界中を一気に駆け巡っていった。21世紀に入ってもそれは止まることを知らない。オリンピックが、世界のどこであろうと同時中継まで見られる時代。
▼ゆっくりとじっくりと考える、過ごす暇を与えない時代。勿論、人間が望まなければそうならないわけだから望んできたはずだ。ごく一部の人は、もうこのあたりでいいのじゃないか、そろそろ引き返してもと思う人があっても、この流れを簡単に止めたり引き返すことはできない。大きな濁流となって流れているのだから。時間と金。人間は、時間と金の前で、主従関係が逆になってることも気づかないで、日々あくせくと時を過ごさざるをえなくなっている。サラリーマンは、仕事が終わった後、一杯の酒を仲間と楽しんでいても帰る時間を気にして酒を飲む。
▼現代人は、文明の進歩、近代化に誰もが憧れをもって生きてきた。田舎の人は都会へ、地方の人は中央へ、貧しい国の人は豊かな国へと、今も続いている。1992年に日本に初めて紹介したエマニュエル・トッドは、新著に「西洋の敗北」と銘打った。日本に最初に紹介した本は、旧来のヨーロッパ観を覆し家族構造の分析により全く新しいヨーロッパ像を提起した『新ヨーロッパ大全』。世界を震撼させた9・11の後、『帝国以後』を出版し、今やアメリカは衰退の一途を辿っていることをあらゆる角度から立証した。西欧から生まれたアメリカ合衆国だが、その力はすでに尽きている。それを受けての「西洋の敗北」。
▼高等教育は、秀れた人材を生み出すのか、という問いに「ノン」とトッドは言う。高等教育を受けた人材が文明国を担ってきたが、それは間違っているのではないか。高度な専門的な学・知を手に入れることが、逆に民衆を誤った方向に導いているのではないか。しからば、教育とは何ぞや? 学問とは? 幸せな社会とは? 西欧が生み出した知は、数多の人類の未来への羅針盤とならない。江戸から明治にかけて幾多の大先達を生み出してきた日本人。今こそ、彼らの言葉に真摯に耳を傾ける時がきたのではないか。(亮)

2月号目次

■『現代語訳 後藤新平の処世訓』刊行!
楠木賢道 「『後藤新平の処世訓』とは」
「処世訓」より抜粋

■『グリーンランド〈増補新版〉』を緊急出版!
高橋美野梨 「トランプが照射したデンマーク国家の輪郭」

■遊牧社会における「統治」と「移動」の実像
岡 洋樹 「清朝期のモンゴル」

■反戦平和の詩画人・四國五郎、被爆死した愛弟との絆
趙 博 「『ヒロシマの母子像――四國五郎と弟・直登』に滾る想い」

〈連載〉山口昌子 パリの街角から38「仏芸術勲章」
    田中道子 メキシコからの通信35「非常事態への戦略的対応」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る74「チンギス・ハーンの女系子孫」
    鎌田 慧 今、日本は82「横浜事件と木村まきさん」
    村上陽一郎 科学史上の人びと35「ニュートン(承前)Ⅲ」
    方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える54「百寿とふとした偶然」
    中西 進 花満径119「ノエマとしての死」

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