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社主の出版随想
▼99.4%と0.6%。おわかりだろうか。この数字は、植物生態学者の宮脇昭博士が、十有余年の歳月をかけて、北海道から沖縄までの日本の植生を調査して、本来その土地に生えているべき木(潜在自然植生)かどうか明らかにした数字である。勿論99.4%は偽物、わずか0.6%が本物というわけである。現在の日本の地形が誕生して約1万2千年といわれるが、その後、人間の文明によって変化したことになる。
▼宮脇昭博士の言によると、日本の森はほとんどシイ・タブ・カシを主木とする常緑広葉樹林の植生であると。それがこの1万年余の間に、殆ど偽物に変わってしまった。何故偽物はダメかというと、やはり、その土地本来の木でないと、根付きが悪い。つまり見かけはともかく弱い木にしか育たないからだ。地震や津波などの自然災害の時にも、殆どの後発の木は倒れても、潜在自然植生の木は根が広範囲に深く張っているから倒れないということが、15年前の東日本大震災の時にも実証された。
▼ところが、この大震災の後も、こういう大事なことが、公論にすら上らず、博士らの「鎮守の森のプロジェクト」(細川元首相がその代表を務めた)でわずかに実現されたに過ぎない。こういう時こそ、卓越した大先達の科学者の意見を取り入れ、その土地本来の木を植えるチャンスであったと思う。博士の提言は、全く無視され、すぐに海岸沿いに大手ゼネコンによる飛んでもない高さの防潮堤がつくられていった。誰が考えても、こんなコンクリートを堤防と称して津波対策の処置をして良い訳がない。小学生でもわかることである。にも拘らず、この国の行政は、有無を言わさず、公論にはかることもなく、決定し実行したのである。金はどこに流れたか。
▼新しい年に入った。いつまでこういう馬鹿げたことをこの国は続けているのか。自然災害大国日本は、いつ何が起きるかわからない土地である。新年早々、山陰地方に地震があった。すぐにあの福井の若狭湾に林立する原発は大丈夫だったかと心配になった。国民の安寧を衛るのが、政治の大きな役割である。その為には、政事を司る人の責任が問われるのは言うまでもない。そういう人を監視し、選択する権利は国民に存するのだから、国民の意識を高めることは必至だ。国内・外とも、新年早々何が起きてもおかしくない状況にある。今年も心して一日一日を送りたいものだ。(亮)
1月号目次
■新しい年にあたって
I・イリイチ/石牟礼道子 「ゲニウス・ロキ(地霊)を問い直す」
■デリダ唯一の本格的マルクス論、待望の増補版
増田一夫/E・バリバール 「今、『マルクスの亡霊たち』を読む」
■トッド『最後の転落』新版刊行
鹿島 茂/石崎晴己 「何故、E・トッドはソ連の崩壊を15年前に予言できたか?」
■宇梶静江『大地よ!』新版刊行
宇梶静江 「「アイヌである」とは何か」
■『新宿ゴールデン街 〈双葉〉女三代記』
城島 徹 「桑都・八王子の偉人、萩原彦七顕彰」
■西舘好子 「絹の魅力と下仁田の町おこし」
〈連載〉山口昌子 パリの街角から37「今も昔も光の街パリ」
田中道子 メキシコからの通信34「東方の三人の王様」
宮脇淳子 歴史から中国を観る73「遊牧帝国は遊牧部族連合」
鎌田 慧 今、日本は81「大江さんと石川一雄さん」
村上陽一郎 科学史上の人びと34「ニュートン(承前)」
方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える53「人生百年の回顧」
中西 進 花満径118「万葉集と現象学」
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