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社主の出版随想
▼慌しい1月、2月も過ぎ、3月も早や中旬を迎える。いつもは、近くの善福寺公園で、梅を蠟梅から白梅、紅梅と順々に眺めるのが例年の楽しみだが、今年は何故かなかなかそういう気にもなれなかった。2週間前、白梅、紅梅を見たが、先日訪れた時は散ってしまっていた。もうすぐ桜の出番直前の穏やかな静けさとでもいった公園であった。四季がいつの間にか二季になったとも云われる今日だが、やはり花は、その季節になると咲いてくれ、われわれ人間の心を和ませてくれる。花だけではなく、野草も旬のもの、たらの芽やふきのとう、ヨモギなどを戴くのが何よりの楽しみだ。
▼人間にとって楽しめるものは、動物だけではない。植物の方がひょっとしたらもっとすごいのではないか、と思えるようになってきたのは、まだこの四半世紀ぐらいにしかならない。殆どの動物の寿命は百年足らずだが、植物の寿命は、長いものなら数百年、否千年を超える木もわれわれの廻りにはある。こういう古木、大木を眺めていると、自分の存在がいかにちっぽけなものであるかを教えてくれる。
▼かつて、「森の匠」の宮脇昭博士と対話していた時、「僕の処女作は『植物と人間』ですが、編集者が、タイトルに『植物』をつけるのはやめて欲しい、『植物』とつくと売れなくなるんですと言うんだ。この本は、植物と人間の関わりを説いたものだからこれしか付けようがないとつっぱねると、渋々このタイトルで出した。この本が売れた。初版は三千部ぐらいだったが、毎年版を重ねるロングセラーになった。後でその編集者は、喜んでいたよ」とニコニコしながら話されたことを今も思い出す。何故だろう? と自分に重ね合わせながら考えた。
▼人類は、これまでもっとも大切なことを置き忘れてきたのではないかと。われわれ生き物を静かに見守ってきてくれたもの、大きな声も出さずに。しかも、食用はおろか、気候変動に対しても、また日常でも心を和ませてくれる植物の存在を、当り前のごとくあまり気を遣うことなく過ごしてきたのではないか。東日本大震災などの自然災害の時にも、その土地本来の木は、重要な役割を果した。今、その植物が危機に陥ってきていることを色々なところで教えてくれる。われわれ人間は、植物の存在に、もっともっと目を留める必要があるのではないか。今朝なんとなく思いを馳せてみた。宮脇昭博士、ありがとう。(亮)
3月号目次
■藤原社主、フランス芸術文化勲章オフィシエ 受章
山田鋭夫 「藤原さんの芸術文化勲章受章について」
藤原良雄 「芸術文化勲章オフィシエを受章して」
「藤原良雄氏の仏芸術文化勲章オフィシエ受章を祝う集い」報告
■毒舌とユーモアで、社会の真実を追求した
大宅映子 森 健 青地 晨 久野 収 「大宅壮一の遺産」
■ワクチン強制か、勧奨か、放任か!? 必読書、待望の新版
手塚洋輔 「予防接種行政が担うべき責任とは」
〈連載〉山口昌子 パリの街角から39「エッフェル塔に日本女性の名前」
田中道子 メキシコからの通信36「憲法と民族主権」
宮脇淳子 歴史から中国を観る75「元朝崩壊後オイラトがモンゴル高原に覇を唱える」
鎌田 慧 今、日本は83「菊池事件の不条理」
村上陽一郎 科学史上の人びと36「ラプラス」
方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える55「百寿回顧と『学問の王道』」
中西 進 花満径120「一兵卒の死」
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