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社主の出版随想
▼後藤新平(1857-1929)に浸って四半世紀が経つ。この間一度もこの辺りでいいかと思ったことはない。それ程後藤の魔力(深さと広さ)にとり憑かれているといっても過言ではない。拙が生まれる92年前、幕末に伊達藩の留守家(藩の中で統治に手を焼いたところ)に賊軍の子として生まれ育つ。68年に12歳。「三つ子の魂百まで」とは昔からよく言われた言葉だが、終生、反骨精神を持ち続け、権力に阿らず、己れの信ずる道(衛生の道)を歩み続けた男だ。
▼後藤の最晩年は、やはり後人への期待、希望である。1922年に少年団日本連盟(現ボーイスカウト)を創設し、人間としての自律自活の道を体験を通して教えた。又、アジアから学生や教師を集めてアジアに開かれた大学をと、全財産を抛って現在の厚木基地に30万坪の土地を購入し、明倫大学と名づけた。この計画がこれからという時に後藤の生命は尽きた。
▼還暦を過ぎてからは、まさに波乱万丈の時間空間と言える。第一次世界戦争、ロシア革命(社会主義政権の成立)、スペイン・インフルエンザという感染症で大量の死者(世界で5000万~1億人、日本で74万)、未曾有の首都圏直下の関東大震災、と次々に大事件が起きる。この頃世界を視察した後藤は、20年に「大調査機関」構想を作る。しかし、これも大政党に阻まれ挫折。請われて東京市長になった時に、都市はいかにあるべきかを市民の立場で考える東京市政調査会を作った。
▼この後藤精神は、幼少期の腕白時代に、大参事として水沢に派遣された横井小楠の四天王の一人、安場保和から受けた影響は大なるものがあろう。百年先を見据えた政治。公共の精神に則った政治。市民は自治三訣(人のお世話にならぬよう/人のお世話をするよう/そして酬いをもとめぬよう)の精神で生きることが肝要、と。
▼新しい時代を迎える度に、「後藤新平出でよ」のかけ声はあがるものの、時代は、後藤精神とは全く関係なく進んでいる。平和、平和の合唱はつねにありながら、いつまでたっても止まない戦争。人智を超えたものをどんどん作ってゆく人間に未来はあるだろうか。(亮)
6月号目次
■『最期の後藤新平』刊行
「死を前にした後藤新平の内政・外交への 未公刊の『遺言』」
楠木賢道・伏見岳人 「後藤新平の『遺言』をどう読むか」
■浜名優美『ブローデル『地中海』入門』新版刊行
浜名優美/L・フェーヴル 「『全体史』を描いた名著『地中海』」
■『大宅壮一 昭和史の証言』を読む
新保祐司 「裏街道を歩いた言論の俠客」
■『日本に生きた〈ディアスポラ〉』刊行記念
太田阿利佐/モニカ・シモニャン大使 「ジェノサイド犠牲者を追悼」
メスロピャン・メリネ 「ダイアナの物語、その新たな広がり」
■〈イベント報告〉竹内浩三生誕祭2026
西岡博子 「時代を越えて伝えたい竹内浩三のことば」
〈連載〉山口昌子 パリの街角から42「仏で兵役復活」
田中道子 メキシコからの通信39「ドンロー主義との対決」
宮脇淳子 歴史から中国を観る78「現在のモンゴル民族の起源」
鎌田 慧 今、日本は86「日本の犠牲区域」
村上陽一郎 科学史上の人びと39「フランクリン」
中西 進 花満径123「路地の三味線」
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