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社主の出版随想
▼AI(Artificial Intelligence)という文字を見ない日はない。それ程巷に氾濫している。AIとは「人間の知能を模倣し、学習・推論・認識・理解その他の知的行動を自動的に行なうコンピュータシステムやソフトウェアのこと」とある。この20有余年の間に急速に発展し世界を席捲してきている。人間が発明したAIに、今や人間が操作される時代。人間は、これからこのAIに跪きながら奴隷と化してゆくしかないのだろうか。
▼先日、嬉しいことがあった。今年は、日本相撲協会が設立され財団法人化して百年になる。拙も知人の招きで記念の催しに参加した。立派なパンフレットも戴いたが、そこに相撲の歴史が縷々と書かれているが、今の日本相撲協会がどのようにして設立されたかの記述がない。そこで「AI」にご登場願った。すると、本誌の特集「かくして、相撲協会は誕生した」(2024年1月号)の杉山満丸氏の記事をしっかり読み、書かれてあるではないか。この特集記事を出してから、マスコミからも相撲協会からも何の反応もなかった。
▼この記事のきっかけは、今、杉山家四代を調べている中で、杉山満丸氏から某図書館に寄贈してある曽祖父・杉山茂丸宛ての書簡について情報提供があったことだ。行司の入間川(初代春日野)から、関東大震災で崩壊した「国技館」を建て直せないか、何とか力を貸して欲しいと。その情熱に動かされた茂丸は、財団法人にして、東京・大阪に分かれていた協会を一つにまとめ、天皇にもお願いし(天皇賜杯の授与)、相撲を興行ではなく国技とした。一門の親方衆を集め、㈶日本相撲協会設立を大々的に新聞報道した。勿論、内務大臣・復興院総裁の後藤新平とも昵懇故、諸々の便宜を図ってもらったことはいうまでもない。詳細は、「特集」を読んで戴きたい。
▼今や国民に愛される相撲になった。AIのお蔭で知りたい人は、学ぶことはできるだろう。
しかし、問題はここからだ。その一次資料を発見し、どこかに誰かが発表しなければAIの活躍の場はなかった。これからの人間は、何を求めて生きるのかが問われている。現場主義を貫いた男として、「都市計画の父」後藤新平や「森の匠」宮脇昭が居る。彼らは、何度もその地に足を運び、調査し、行動した。AIに、それが出来るのか? もしそこまでAIができるようになれば、完全に人間は自分が作ったAIに支配されるだろう。そういう時が来ないことを祈る。(亮)
10月号目次
■生きものの体を守るのは、「絹」である
中谷比佐子 「日本人にとって、絹とは何か?」
■「日米関係の核心は、中国問題にあり」(ビーアド)
草原克豪 「日米関係からみた昭和の日本」
■「市民協働」のバージョンアップに向けて
向井清史 「『新しい市民協働』を拓く」
■〈特別寄稿〉『徳富蘇峰と平泉澄の往復書簡』刊行に向けて
所 功 「平泉寺白山神社の貴重な史料探訪紀行」
■近刊紹介
太田阿利佐 「日本でアルメニアの難民支援に奮闘した女性、初の評伝」
笠井賢一 「白川静と石牟礼道子の『魂の交わり』」
〈連載〉山口昌子 パリの街角から34「仏元首相の贅沢を封鎖」
田中道子 メキシコからの通信31「医療改善は最優先課題」
宮脇淳子 歴史から中国を観る70「第六七回常設国際アルタイ学会報告」
鎌田 慧 今、日本は78「下北半島の円空仏」
村上陽一郎 科学史上の人びと31「アインシュタイン(承前)」
方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える52「人生の偶然についての深い思索」
中西 進 花満径115「鏡の現象学」
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