社主の出版随想
▼今年も長かった暑い夏がそろそろ終りを迎えようとしている。この数年は、春や秋といった時候の良い季節はすっかり影を潜め、急に暑さや寒さがやって来る。日本という国は、四季に恵まれた国と言われてきたが、もはや二季の国に変貌してしまったようだ。しかも、先日の集中豪雨のように一気に雨が降り、各地に大きな被害をもたらす。この所、梅雨入り、梅雨明けもはっきりせず、ずうっとジメジメした暑さが続く憂うつな毎日である。
▼この地球環境の異変に、世界の科学者はどう自覚し立ち向かっているのだろうか。異常が継続するといつの間にかそれが普通になる。特に20世紀後半からの人間による自然環境破壊は凄まじく、地球上の数百万ともいわれる生命種が激減し、滅亡の危機にある種が増えているといわれている。地球の生態系のバランスが完全に壊れてしまっているのではないか。
▼この半世紀に、地球上で人間は一挙に短時間で大量の輸送・移動することができるようになった。大量のエネルギーを使って。しかもこの十数年で、情報も一瞬にして世界中の人々に知られるようになった。それは科学や科学技術の進歩と謳われる。その反面、そのことが逆に大きな被害をもたらしてきていることは、言うを俟たない。これまで、不特定多数に配信することは限られたメディアでしか考えられなかったが、今では不特定の人間が、マシーンさえあれば、偽情報でも、いついかなる時にでも相互に送信することができるようになった。特に、戦争において、全くやり方が変わってきた。ボタン一つで、多くの人間や建物などを大量に一挙に破壊・殺戮する。それが“文明”という物を手に入れた人間の生き方、考え方であるように。
▼我々は、何を目指して努力し生きてきたのだろうか。しかも、次世代に何を遺そうと思って日々努力しているのか。破壊・殺戮のために、教育を受け、学問をしてきたのか。決してそうではないだろう。今学校で、教育者は、子どもに何を教えているのだろう。父母は、子どもに何を語れるのだろう。人間は、長い時間をかけて、良い暮らしを求めて人間以外の生き物と共存・共生しながら生きてきた。彼らの生命を奪いながらも、日々、祈りや感謝の念を捧げて。それが、この百年足らずの間に木端微塵に打ち砕かれてしまった。この責任は、誰がどのようにとらなければならないか。暗澹たる気持でこの夏の終りを過している。(亮)
9月号目次
■戦後80年。日米同盟の現実を抉る
毎日新聞取材班(大場弘行) 「首都圏は米軍の『訓練場』」
■『ハルビンの詩がきこえる』待望の新版刊行!
加藤登紀子 「母が暮らしたハルビンへ」
加藤淑子 「ロシア人たちのハルビン」
■『玉井義臣の全仕事 あしなが運動六十年』全6巻完結!
玉井義臣 「あしなが運動を生み、育てた三冊」
■死の三ヶ月前の提言「電力・生命保険・酒類の国有化」
楠木賢道 「後藤新平最晩年の提言――生命保険の国営化と産児制限を中心に」
〈連載〉山口昌子 パリの街角から33「万博に観るお国柄」
田中道子 メキシコからの通信30「反貧困政策の成果」
宮脇淳子 歴史から中国を観る69「世界的ユーラシア研究の六十年」
鎌田 慧 今、日本は77「悲報と朗報の間」
村上陽一郎 科学史上の人びと30「アインシュタイン(承前)」
方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える51「ヒポクラテスと蘭方医」
中西 進 花満径114「意識の連続」
8・10月刊案内/読者の声・書評日誌/イベント報告(7・30 山百合忌)/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想
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