社主の出版随想
▼いつも気になる言葉がある。「終戦」という言葉。正確には、というか大事なのは、敗戦したということ。明治以降、大日本帝国は、初めて戦争に負けたという事実だ。無条件降伏で。敗戦後直ぐに、英・米・中・ソ中心に勝者GHQは、日本全土を占領下に置き、これからの日本をどうするかを考えた。一番大きな問題は、天皇(皇室)をどう扱うかだ。これは、連合国、特にアメリカの中でも大いに議論があったようだ。この7年に及ぶ占領下、GHQの指揮下に事は進められてゆく。無条件降伏により敗者としていかなる措置を取られてゆくのか、誰も知る由もない中、「天皇」は、象徴として、GHQ主導下で短期間で作られた新「憲法」の冒頭に据えられる。以降、民主主義と称して、これまでの国体、国の制度をどんどん塗り替えてゆく。国民は、長い戦争状態からの解放もあってか、敗戦はしたが、この数年間の無政府状態に欣喜雀躍する所もあったのではなかろうか。
▼言論活動もGHQの検閲下にあったとは言え、現今とは違って多種多様な雑誌が出版されている。この状態が6、7年続いた後、講和条約が結ばれ、日米安保条約が結ばれる。今でいう「地位協定」もこの時に決定する。奄美以南は、米軍の支配下、「琉球政府」が設立され、72年まで続く。本土の教育も、新しい「教育基本法」や文部省の下、民主的なる教育が施され、戦前は、アジアへの侵略、暗い悪い時代として積極的に学ぶ必要なし、との公教育がなされた。これが、戦勝国からの指令で為されたのか、日本の指導者が、アメリカにすり寄った教育政策だったのか知らない。
▼戦後80年、昭和百年を迎えた今年、今を生きるわれわれは、歴史の真実を知り、その上で今何を為すべきかが一人一人問われている。国史の中で、「天皇」(皇室)をどう認識すれば良いのか。つまり、日本はいかなる歴史を持つ国であるのか。戦後、戦前を「皇国史観」として切り捨て学ぶことを放棄してしまったわが身ながら、今一度、蘇峰の『近世日本国民史』(全百巻)を繙きながら、先人の遺してくれた仕事を虚心に学んで行きたいと思う。80年の空白は、余りにも長かった。(亮)
8月号目次
■在仏35年のジャーナリストから見た参院選
山口昌子 「欧米から見た参院選 日本への警告」
■四十年以上の教育と運営の現場経験から
石井洋二郎 「大学の使命を問う」
■『岡田英弘著作集』第8巻、待望の増補新版!
宮脇淳子 「アルタイ学と私たち」
■〈明治の製糸王〉萩原彦七から始まる家族物語
萩原初江・城島 徹 「新宿ゴールデン街 〈双葉〉女三代記」
〈連載〉叶 芳和 日本ワイン 揺籃期の挑戦者16(最終回)「小さなワイナリーは自己実現/大規模ワイナリーは消費者重視」
山口昌子 パリの街角から32「戦勝記念日の廃止にレジスタンス」
田中道子 メキシコからの通信29「長期化する対マフィア・腐敗機構との戦い」
宮脇淳子 歴史から中国を観る68「日本のアルタイ学者の系譜」
鎌田 慧 今、日本は76「参院選のあとの不安」
村上陽一郎 科学史上の人びと29「アインシュタイン」
方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える50「私の『プライマリ・ケア医療方法序説』(2)」
中西 進 花満径113「さまざまな実相」
7・9月刊案内/読者の声・書評日誌/イベント報告(7月5日 後藤新平の会)/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想
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