2025年03月24日

月刊PR誌『機』2025年3月号 巻頭「放送の役割とは何か」

 

前号    次号



 

社主の出版随想

▼「アメリカは世界を必要としているが、世界はアメリカを必要としていない」という名言を掲げ、2002年、9.11の一周年記念に出版された『帝国以後』。アメリカを除く世界数十ヶ国で翻訳出版された話題の書である。わが社でも翌年に邦訳を出版するや、これまでのエマニュエル・トッドの本とは違う異常な動き方をした。2001年の9.11で、世界の同情はアメリカに集まり、小ブッシュ大統領は、イスラム原理主義の過激派の仕業と決めつけ、アフガン侵攻・イラク強制捜査と決定したことに、世界からの批難はほとんどなかった。
▼この21世紀を迎えたアメリカの貿易赤字基調は年々衰えを知らなかった。EUや諸外国は、貿易黒字基調で安定しているのに、アメリカ一国は、諸外国からの輸入で何とか国を維持していた。超大国アメリカの前途は多難であった。ちょうどその時の9.11である。『帝国以後』は、そのアメリカの衰退を描いたヒット作だ。その後もトッドは、「イスラムvs西洋」の虚構を暴いた『文明の接近』(2007)を刊行し、続いて、識字化以後の高等教育の普及が階層化を生み出し、「自由貿易」という支配層のドグマが各国内の格差と内需縮小をもたらしていると。だからアメリカ(日本)は、今こそ、協調的「保護主義」政策をとるべきだと提唱した『デモクラシー以後』(2008)を出版する。この本にはケインズの名論文「国家的自給」(1933)も収録した。その後トッドから、19世紀独の保護主義の経済学者F・リストの主著『経済学の国民的体系』に序文を付し復刊したと聴き、2011年に、それを収録した『自由貿易という幻想』を編んだ。デフレ不況を克服するためには、自由貿易ではなく保護貿易への転換が、一時的にも大切である、と。
▼クリントン、オバマの後に2017年にトランプは、「保護主義」を提唱し、アメリカ大統領に選出された。かなり強引なやり方でアメリカ経済の立て直しをはかったが、次期選挙でバイデンに政権を奪われた。この1月20日に第47代大統領となり、矢継ぎ早やに公約を実現している。再び「アメリカファースト」を掲げ、自国の経済の立て直しを。多額の関税政策で自国の産業の立て直しをはかる覚悟で。しかし、世界の諸国との関係を無視したやり方は、成功には至らないだろう。われわれが今一番問われているのは、日本の行動であることを自覚することだ。(亮)

3月号目次

■百年前に放送開始した「ラジオ」を考える
後藤新平 「放送の役割とは何か」

■〈ゾラ・セレクション〉(全11巻・別巻1)完結!!
小倉孝誠 「『ゾラ事典』の誕生」

■ベッドが、段ボールハウスが、ある教室。
宮田貴子 「僕たちのサードプレイス」

■「生の空間」の提唱者ラッツェルとは?
野尻 亘 「「地政学」批判――生と風土」

〈連載〉叶 芳和 日本ワイン 揺籃期の挑戦者11「固有種『甲州』の七転八起」
    山口昌子 パリの街角から27「トランプ・インフルエンザが欧州席巻」
    田中道子 メキシコからの通信24「トランプ対策」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る63「鄭和の南海大遠征」
    鎌田 慧 今、日本は71「SNSとマスメディア」
    村上陽一郎 科学史上の人びと24「デルブリュック」
    方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える45「随想 まっすぐの道」
    中西 進 花満径108「静謐な『未必』」

2・4月刊案内/読者の声・書評日誌/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想

PR誌・月刊『機(き)』は、藤原書店ブッククラブの機関誌でもあります。定期ご購読こちらから

見本誌のご希望も、お気軽にご用命ください。こちらから