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エミール・ゾラ没100年記念出版

エミール・ゾラ

時代の真理と人間
 『ルーゴン=マッカール叢書』の構想ノートより(1868―69年)

小倉孝誠訳

 近代の動きを特徴づけているのはあらゆる野心のぶつかり合い、民主主義の昂揚、あらゆる階級の登場ということである。私の小説は一七八九年以前には不可能だったろう。さまざまな野心と欲望の衝突という時代の真理にもとづいて、私は小説を書く。そして現代世界に投げ出された一家族の野心と欲望を分析する。その家族は超人的な努力をするが、みずからの性質と外部の影響ゆえにかならずしも目的に達することができず、成功したかと思えばすぐに没落し、最後にはまさしく精神的な怪物を生みだしてしまう(司祭、殺人者、芸術家)。時代は混乱しており、私はこの時代の混乱を描きたい。次のことは絶対に指摘しておく必要がある。私は現代人が飛躍するために大きな努力をはらっていることを否定しないし、人間が多かれ少なかれ自由と正義にむかって進んでいくことを否定するものでもない。ただ人間は常に人間である、つまり情況におうじて善良になったり邪悪になったりする動物である、というのが私の信念だ。(…)私の構想している作品を一言で要約するならば次のようになろう。
 自由と真理の時代のとば口にあって、私はある家族の歴史=物語を描きたい。その家族は手近な富をめざして奮闘するが、そうした奮闘そのもののせいで、まさしく時代の混濁した光や、ひとつの世界が誕生するときの宿命的な痙攣のせいで錯乱し、転落していく。