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社主の出版随想
▼今月は何を書くかギリギリまで悩んだが、出生数の減少と死亡者の増加が予想以上のスピードで進んでいることは、国家の衰退どころか滅亡に繋がること。憲法で、学問の自由が謳われながら、政府の権力の下に置かれることで、学問の独立を守ることができるのか? 国内だけでも内憂は多々抱えている。外患の面では、イスラエルのガザやイラン攻撃は留まるどころか激しさを増している。その中で、世界平和の維持に「核」を持つことが最大の防禦とか。核の恐しさ、悲惨さを知らない奴等は好き放題物語っている。
▼しかし、今月は新聞、テレビ、週刊誌でもこれ程語られることはない程の、戦後日本プロ野球界のスターの死について語らないわけにはいかないだろう。長嶋茂雄は、われわれ戦後第1次ベビーブーマー世代の輝ける星であることは言うまでもない。昭和33年、大学から鳴り物入りで巨人軍に入団した長嶋。巨人への入団には、色々あった。立教三羽烏の本屋敷は阪急に、杉浦は南海へ。長嶋も鶴岡南海に入る予定が急遽巨人に。当時としては破格の契約金で。当時、テレビが普及し始める高度経済成長にさしかかった頃。わが家にもTVが入り、巨人対国鉄の初戦を、幼いながら喰い入るように観た。先発は、球界を代表する左腕金田正一。入団早々の長嶋は、その金田の豪速球に全くカスリもしないで、4打席4三振。子供ながらも、プロとアマの違いを感じたものだ。しかし、その後長嶋は、全く打てなかった金田からも打ち、入団1年目にして、打率だけは、阪神の田宮に譲ったものの、打点王、本塁打王の栄冠を勝ち取った。この華々しいデビューは、かつての“打撃の神様”川上哲治、青バットの大下弘、“物干し竿”の藤村富美男ら錚々たる選手の後継者として颯爽と立ち現れた。
▼この後も、長嶋はすばらしい成績とチャンスに強い選手として、しかもその魅せるプレーの格好良さも手伝って多くのファンを獲得していった。74年の引退までの16年間、茶の間の人気者として皆に慕われた。わが国の経済が最も活況を呈していた時期と照合する。阪神の村山実、小山正明、バッキー、江夏豊、西鉄の中西太、稲尾和久らとの対戦は、球史に残る見事なものであった。長嶋茂雄は、時代の寵児として、申し子として89年の生涯を恰好よく駆け抜けていったと言っても過言ではないだろう。(亮)
6月号目次
■後藤新平の「遺言」
伏見岳人 「後藤新平、人生最後のラジオ演説」
「若き後藤新平の『後藤新平論集』遂に刊行!」
春山明哲 「後藤新平の「衛生の道」とは何か」
■今こそ問い直す、「近代」実現の意味
河東哲夫 「「自由と民主」の世界史」
■明治・大正・昭和の大言論人、蘇峰の幻の「遺書」
所 功 「徳富蘇峰『国史より観たる皇室』」
〈連載〉叶 芳和 日本ワイン 揺籃期の挑戦者14「反逆のワイナリー」
山口昌子 パリの街角から30「パリがお花畑に!?」
田中道子 メキシコからの通信27「市民教育としての行政」
宮脇淳子 歴史から中国を観る66「第六七回 常設国際アルタイ学会」
鎌田 慧 今、日本は74「研究・言論の自由について」
村上陽一郎 科学史上の人びと27「ワトソン」
方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える48「キケロとセネカに学ぶ老いの医学(続)」
中西 進 花満径111「魂の帰還」
〈報告〉「渡辺利夫氏・新保祐司氏 合同出版記念会」
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