2024年10月24日

月刊PR誌『機』2024年10月号 巻頭「今、なぜミシュレか」

 

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社主の出版随想

▼60年代末から70年代にかけて学を志した頃は、マルクスというかマルクス主義の嵐が吹き荒れていた。“丸山教”の丸山真男氏と後年お会いした時も、「社会科学をやる者にとって、マルクス主義でない者は肩身が狭かった」と、苦笑しつつ当時を振り返られた。それ程、マルクス主義全盛の時期だった。ピークは必ず衰退する。
▼70年代も半ばを過ぎると早やその兆しが西欧世界に現れてきた。「ユーロコミュニズム」や「第三の道」……次々とマルクス主義への疑問や批判が出てきた。ちょうどその頃だったか。ミシュレの『民衆』が翻訳出版され、歴史家井上幸治先生と出会う。井上先生には、マルクス主義に替わる歴史の方法、社会の見方を考究している旨の手紙を差し上げていた。75年春、今村仁司氏の『歴史と認識――アルチュセールを読む』を処女出版する。先生は、アルチュセールのモンテスキュー論の『政治と歴史』を話題にされた。アルチュセールの『共産党の中でこれ以上続いてはならないこと』や弟子のバリバールの『プロレタリア独裁とはなにか』を翻訳出版したのもこの頃だ。
▼その後、井上先生から、マルクス主義との葛藤から歴史の方法を根底から問い直す「アナール学派」の存在を教わった。80年代からアナール派の本を紹介した。その中で第二世代のブローデルの存在を知る。アナール学派の金字塔『地中海』が、まだ日本に紹介されていなかった。ブローデル没後、その全貌を鳥瞰する井上幸治編の書を緊急出版した。その本を作る過程で、19世紀にジュール・ミシュレという大歴史家がいたことを発見した。アナール派が追究した歴史学は、「全体を捉える眼」である。その誕生の半世紀前に、膨大な『フランス史』を書き、人類はおろか生類すべてに至る全体の歴史の中で人類史を位置づけようとした、ミシュレという稀代の人物が居たことを。ミシュレは、マルクス生誕の20年前、バルザックやコントらと同じ頃に生まれ活躍していた。因みに、フランスの68年学生運動のバイブルは、ミシュレの『学生よ』であった。
▼それ以来、ミシュレとは何者かを日本の読者に熟知してもらいたく、『女』『海』『山』『世界史入門』……『フランス史』「日記」などをコツコツと30有余年かけて、大野一道氏他の力をお借りしながら出版してきた。今月皆様にお送りする氏の書を、ミシュレ紹介の掉尾としたい。(亮)

10月号目次

■ミシュレ没150年記念!
大野一道  「今、なぜミシュレか」

■「休息」の意味するものは、いかに変容してきたか?
A・コルバン   「われわれにとって、「休む」とは?」
小倉孝誠   「数あるコルバン作品の中での位置」

■『玉井義臣の全仕事』第Ⅰ巻(第3回配本)
玉井義臣   「母の事故死が私をきたえた」

■〈書評〉カレール=ダンコース『崩壊したソ連帝国』
宮脇淳子   「ロシアとは何か?」

〈連載〉叶 芳和 日本ワイン 揺籃期の挑戦者6「雪がブドウの樹を守る」
    山口昌子 パリの街角から22「アデュ! アラン・ドロン」
    田中道子 メキシコからの通信19「新政権メンバー構成にクラウディア路線」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る58「東洋文庫百年の財政事情」
    鎌田 慧 今、日本は66「『客観報道』のウソ」
    村上陽一郎 科学史上の人びと19「パウリ」
    方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える41「父の思い出を詠む、中山ヒサ子さん」
    黒井千次 あの人 この人19「正しい文通」
    山折哲雄 いま、考えること19「主人と奴隷の弁証法」
    中西 進 花満径103「桃李の歌(6)」

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