2024年09月26日

月刊PR誌『機』2024年9月号 巻頭「『言葉果つるところ』待望の新版」

 

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社主の出版随想

▼9月に入ったというのに、まだ猛暑が続いている。この齢になると、日中のみならず、朝晩もムッとする暑さの毎日に閉口する。涼風が朝晩吹くのはいつの頃になるのか、と。
 小社も設立35年になる。ロングセラーを目指して出版を続けてきたが、どうやらこの十数年、再版できずに品切れ状態にしてきた名著がいつの間にか数を増してきた。この数ヶ月ぐらい前から、E・ガレアーノの『収奪された大地――ラテンアメリカ五百年』や、H・カレール゠ダンコース『崩壊したソ連帝国――諸民族の反乱』など、新たに現在活躍中の日本の知識人に、推薦文を戴き、新版として刊行してきた。現今の本を読まない、売れない状況の中で、これらの本が意外に健闘している。品切れにするということは、再版できる一定数の購読者を想定することができなくなったからである。
 現在の再販制というシステムの中で、注文品も返品を受け取らざるを得ないという出版社にとって過酷な状況の中、色々な思案を巡らせながら出版事業を推進してゆく以外にない。単なる重版では、倉庫に在庫を寝かせておくだけだから、新版、新装版、増補版という形にすれば、少しでも新しい読者との出会いがあるかもしれぬ、と。
▼先日も、今を時めくS氏が、NHKラジオの朝番組で、ロシア―ウクライナ問題を解く鍵は、藤原書店から出版されているガレアーノの『収奪された大地』だと、この本の読み方を紹介してくれた。即刻反響はあったのは言うまでもないが、残念ながら在庫がなかった。すぐに作りたいとは思うものの、今すぐ発注しても出来あがるのに最低3週間はかかる、出来た時にはその熱は冷めていて大量に在庫が残ることは目に見えている。とうとう作るのは断念。マスメディアで紹介してくれることは有り難いが、何の前触れもなく突然の紹介、しかし社に在庫がない。そういうことが繰り返されることが多い。折角の売れる時を逃してしまう体験は、二度や三度ではない。
▼今、メディアで絶賛されても本当にその影響で本が長く売れ続けることはなくなった。せいぜい半月。短ければ1週間。これだけ、情報が毎日毎日大量に溢れるように氾濫する現在、メディアからの発信を待つのではなく、当方からのメッセージを、社の編集方針と共に、その本の出版の意味を積極的に読者に伝えていかなくてはいかんのだろうと切に思うこの頃である。(亮)

9月号目次

■『言葉果つるところ』待望の新版!
鶴見和子石牟礼道子  「言葉果つるところ」
赤坂真理  「じゃなかしゃば、あるいは、はらいそ(天国)」
赤坂憲雄  「ただ感謝の思いを」

■バルザック『風俗のパトロジー』待望の新版!
今福龍太   「バルザックとともに呼吸する文体」
青柳いづみこ   「バルザックとの新たな冒険」

■編集者として日中文化交流に架橋する
城島 徹   「松居直の最高傑作は、唐亜明」

小坂洋右   「『アイヌの時空を旅する』、和辻哲郎文化賞・斎藤茂太賞ダブル受賞に思う」

〈連載〉叶 芳和 日本ワイン 揺籃期の挑戦者5「大規模ワイナリーの成果」
    山口昌子 パリの街角から21「パリ五輪余波」
    田中道子 メキシコからの通信18「AMLOが残した課題」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る57「東洋文庫設立百年」
    鎌田 慧 今、日本は65「最高裁判事を弾劾訴追」
    村上陽一郎 科学史上の人びと18「渡邊慧2」
    方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える40「出版記念の会」
    黒井千次 あの人 この人18「逃げる客と追う駅員」
    山折哲雄 いま、考えること18「祖国の悲運」
    中西 進 花満径102「桃李の歌(5)」

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