2022年06月23日

月刊PR誌『機』2022年6月号 巻頭「生涯一書生――『我らの一策』出版」

 

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社主の出版随想

▼毎年6月になると、「出生数」や「出生率」の数字が新聞メディアで報道される。周知の如く、日本の出生数は毎年漸減の傾向にあり、5年前に100万を割り、昨年は、81万と過去最少を記録した。戦後すぐの第一次ベビーブーム期は270万近かったというから、ここ数年は、その3分の1にも満たない。因みに、死亡数は、戦後最多の144万人というから、63万人の人口減である。これは過去最大の減少と。しかも、出生数は、2016年に100万を割ってからわずか5年で20%の減。この出生数の急減をどう考えたらいいのだろうか。
 戦後77年の日本の出生動態を見ると、1947~49年の第一次ベビーブーム期の後、下り坂で、73~75年の第二次で少し上るが、その後今日に至る約50年は下りっ放しである。戦後の高度経済成長期も出生数は減少を続け、低成長期→バブル期→バブル崩壊に至る時期も一時の増加はみたものの、漸減してゆき、遂に戦後直ぐの時期の30%にまで落ち込んだ。
▼日本の年齢別人口ピラミッドは、かなりいびつな形をなす。総人口はまだ1億2千万を数えるが、その世代別人口構成が大問題である。15歳から65歳の労働者人口の先細り現象で、その上が増え、下が減るという形である。これでは日本の明るい未来を描くことはできない。
 もう一つ気になることは、合計特殊出生率(1人の女性が生涯のうちに産む子ども数の平均)の漸減である。世界の国々と比較しても圧倒的に低い。人口維持に2.06は必要だが、1.3である。これでは、出生数は増える気配がない。終戦直後は、4.0を超えていたが、75年に2.0を割り、その後は低落の一途である。
▼国の未来は、元気な子供を産み育てる、ということにかかっている。その子供を産み育てる環境を、“高度経済成長”という物質的富の豊かさを謳歌し、自然を破壊してきたのが、戦後の日本である。しかも子供たちの遊び場だけではなく、地球に生きる生き物の生命(いのち)も、科学技術至上主義により、大量に殺戮を繰り返してきた。われわれ自身が便利で快適な生活のための諸活動を行なってきたが、そういう生活の総点検をしないと来るべき明るい未来はない。今、“ゆたかな生(ウェルビーイング)”を送るために、全力を注ごうとする自治体や企業が出現してきているが、われわれ一人一人の生き方が、今問われているということだ。(亮)

6月号目次

■鈴木一策さんの仕事と人間を振り返る
今一度、議論したかった、一策さん 福井憲彦
マルクスの道化師 中沢新一

■問題作『セレモニー』の作家と歴史学者の激論
内側から見た中国社会の真実 王柯・王力雄

■ウェルビーイングのための経済学とは?
「ゆたかな生」をめざして 山田鋭夫

■国際的経済学者のライフワーク
日本とアジア 経済発展と国づくり 市村真一

■患者さん中心の医療。『人薬(ひとぐすり)』出版
患者さんたちの全人的な姿 山本昌知

〈リレー連載〉近代日本を作った100人99「尾崎行雄――信念と不屈の政治家」 石田尊昭
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える15「地域で共に認知症を衛る1」 方波見康雄
    歴史から中国を観る30「現代内モンゴル人の漢字名」 宮脇淳子
    今、日本は38「沖縄と日米国家」 鎌田慧
    花満径75「クマがカミとなる」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―70「「移民」大歓迎」 加藤晴久

5・7月刊案内/読者の声・書評日誌/イベント報告(宮脇昭先生を偲ぶ会・鈴木一策さん一周忌)/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想