2022年05月23日

月刊PR誌『機』2022年5月号 巻頭「沖縄の“本土復帰”50年の意味」

 

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社主の出版随想

▼今、100年前の出来事を考えている。第一次大戦が終結し、パリ講和会議、ベルサイユ条約も終わり、21年11月からワシントン会議が開かれ、日本からは加藤友三郎が全権大使で臨み、英米仏に加えた日本の4ヶ国で翌12月の調印となる。アジアから唯一日本が欧米列強の仲間入りをした。まさに順風満帆のように見える。しかし、国内では、21年9月に実業家、安田善次郎、11月に首相の原敬が暗殺される。テロの続発。高橋是清内閣成立、皇太子裕仁(後の昭和天皇)が摂政に就任(大正天皇が病いのため)と。
▼20年の暮れに、渋沢栄一らの勧めで、後藤新平は東京市長となる。翌1月市長俸給を全額、市に寄附。汚職腐敗の東京市の立て直しの為、ニューヨーク市政を参考に「東京市政要綱」を提出。いわゆる「8億円計画」である。この後藤新平に未来を託した安田善次郎は、後藤が作った東京市政調査会設立基金として350万を寄附する。それが、現存する市政会館であり、日比谷公会堂である。しかし、それを待たずして暗殺された。
▼つまり、100年前の現在は、後藤新平という類い稀なる先見性と広い視野をもつスケールの大きな男が、日本の首都東京の都市のあり方の未来を描き、国家予算にも匹敵する「8億円計画」で東京を改造しようとした年である。勿論、そんな気宇壮大な計画を受け容れる人間はいるはずもなく、縮小されていったが。22年9月、ニューヨーク市政調査会から、前コロンビア大学の高名な歴史学者、チャールズ・ビーアド博士を招聘し、市政調査会顧問として約半年、国内の調査や講演で全国行脚する。
▼約半年の滞在で帰国後、調査報告書「東京市政論」を出版。この時、後藤は、ソ連の極東代表ヨッフェも2月から半年間招聘し、日ソ交渉に入る。4月、東京市長を辞職するが、その4ヶ月後に、首都圏を関東大震災が襲う。この時、1週間前に急死した首相の後任は引き継がれたものの未だ組閣されず。未組閣の中の突然の大事件。国家の危機存亡の時である。加藤は、後藤に三顧の礼をとり、後藤は再び内務大臣を引き受け、この危機を救ったのである。その時、あの「8億円計画」が生かされた。(亮)

5月号目次

■沖縄の“本土復帰”50年の意味
月桃の花とジュゴン 海勢頭 豊
沖縄民衆を裏切る「返還協定」 安里英子
食卓へ侵入する戦争 川満信一

■“患者さんに学ぶ”姿勢を貫く精神科医
人薬(ひとぐすり) 山本昌知 想田和弘

■太平洋戦争はなぜ敗北に至ったのか
戦争とフォーディズム 竹村民郎

■『パリ日記Ⅳ サルコジの時代』刊行
パリ日記――特派員が見た現代史記録 山口昌子

〈リレー連載〉近代日本を作った100人98「鳥居龍藏――日本の人類学・考古学・民族学のパイオニア」 田畑久夫
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える14「地域で共に血圧を衛る」 方波見康雄
    歴史から中国を観る29「漢の武帝と汗血馬」 宮脇淳子
    今、日本は37「核武装論の人びと」 鎌田慧
    花満径74「マユミを神木とするクマ」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―69「ドイツの軍事大国化」 加藤晴久

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