2022年02月24日

『機』2022年2月号

 

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社主の出版随想

▼2月に入ったが、相変らず「コロナ、コロナ」の声が聞こえない日はない。感染者は、世界で4億を超えたと報道される。世界人口の5%がこのコロナウイルスに感染したことが大変なのか大したことでないかもわからない。ただ、メディアで毎日、毎日このコロナ報道がなされ、その中で種々の強権が政府や自治体や組織から発動されることで、人の動きも止まるのもやむを得ない。ますますこの「世界ファシズム」「パンデミック・ファシズム」は、強化されるかもしれない。この状態を微笑んでいるのは誰だろう?と夢想する。
▼こういう社会状況の中、3年前に出版した『セレモニー』が「日経」の一面コラム「春秋」で、北京五輪を目前にした1・29に、中国の完全監視社会を「予見したかのような恐るべき小説だ」と紹介され、多くの読者の反響を呼んでいる。著者の王力雄氏は、ノーベル平和賞を受賞した故・劉暁波氏とも交友があったと聞く。現在北京で軟禁状態のようだが、この完全監視社会は、中国のみならず、世界中に広まりつつあるのではないか。国家権力だけでなく、治安悪化する中で国民も求めている社会になりつつある。国民背番号制、急速なIT化、監視カメラの設置……。その中でわれわれは、どういう行動をとるべきか。
▼アメリカの社会は多様である。新興国アメリカ合州国は、自由・平等を世界に先駆け作られた国だ。多民族移民国家アメリカの実態を捉えることは難しい。そのアメリカで今、“リバタリアン”という人々の動きが広がりつつあり、見逃せない。若き俊英たちが集い話し合い1冊の本が誕生した。『リバタリアンとは何か』。いうまでもなく、この「リバタリアン」は、リバティ(=自由)を希求する人たちのことだ。アメリカは建国以来、最も大切にしてきた“自由”が、いつの間にか失われてきたからなのだろう。
▼「自由・平等」は、今や世界中の人々が求めていることは言うまでもない。しかし、今日の社会はこの動きを遮断するどころか、時代は増々逆行の度を強めてきているといっても過言ではない。「自由・平等」は、元々在ったものではなく、人間が理念として掲げ、これを求める社会を作っていこうとしたスローガンだ。衰退の度を強めているかにみえる日本社会でも、この「自由・平等」を求める若者たちは、この状況下の中でも確実に着実に生まれつつあるのではないかと、愚考するし、期待したい。(亮)

2月号目次

■時代を切り拓く自治・自立の思想!
「リバタリアン」は、アメリカで、どのように誕生したのか 江崎道朗

■金時鐘詩集『日本風土記Ⅱ』刊行に寄せて
六十年の時を経て 丁海玉
軌跡=奇跡のノート 細見和之
私の原点 浅見洋子

■人間国宝が能の本質を問う遺著、刊行
追悼・野村幻雪師 笠井賢一
大切なのは感じること 想像すること 野村幻雪

〈リレー連載〉近代日本を作った100人95「横井時敬――反骨の帝大教授」 友田清彦
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える11「地域で共に看る」 方波見康雄
    歴史から中国を観る26「清朝の開国説話の本当の出自」 宮脇淳子
    沖縄からの声XV―2「住民投票を求める裁判闘争の現在」 川平成雄
    今、日本は34「苦渋の島 沖縄」 鎌田慧
    花満径71「古事記のアイヌ神」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―66「ジョゼフィヌ・ベイカー」 加藤晴久

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