2021年12月18日

『機』2021年12月号

 

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社主の出版随想

▼今年も余すところひと月を切った。コロナ禍の中、今年も終わりそうだ。国家も国民もコロナという病いに罹っているのが少し気になるが。今や死語になっている“衛生制度”“衛生国家”に着目して近代国家を作り上げた、百数十年前の歴史を今一度学び直すことも大切なことではないかと思う。
▼今年の掉尾を飾るのは、今夏に逝去された“いのちの森づくり”に生涯を賭けられた宮脇昭博士の偉業が、このCOP26に際して、世界の国々に発信されたことである。この紹介記事は、巻頭に掲げたので繰り返すまでもないが、宮脇博士の仕事は、この混迷の時代に一筋の光を発見するようなものだ。今、ヨーロッパのオランダをはじめとする諸都市で、この宮脇方式の“ミニフォレスト”が盛んに作られている。言うまでもなく森林は、地球温暖化の元凶CO2を吸収する大きな役割がある。
▼しかしここでハタと気づいたが、この記事は英文では共同通信から配信されたが、日本の新聞ではまだ見た記憶がない。なぜこういう大切な記事が、日本の中で新聞を読んでいる国民に紹介されないのか。勿論、ネットには、英文で紹介はされているが。いつも暗いニュースばかり読まされている国民に、この記事はどれだけの希望をもたらすか測り知れない。こういうことに関心を持っている記者が居ないのか、新聞社が、こういう記事、ニュースは、記者が取り上げてもボツにするのか? 内部事情まで知る由もないが、今のところ、まだ日本国内で一紙も掲載されていない(12・12現在)。
▼ついでにもう一言申し添えると、宮脇昭博士は、今年の7月16日に亡くなられた。遺族や周辺からどういう発信が、新聞社や通信社にあったか定かではないが、全国紙の2紙を除いて、ベタ記事で数行程度紹介された。だが、歴史的偉業の大作『日本植生誌』(全10巻)で、1990年度の朝日賞を受賞されたが、A紙にはついぞ今日まで訃報紹介すら掲載されていない。
▼目下、明年1月29日のお誕生日に「お別れ会」を「実行委員会」の発起で行なう予定である。植樹などに参加された方々は是非ご参加戴きたい。この時にお渡しできるよう、宮脇昭の全仕事、全世界1700箇所、4千万本の植樹をした地域場所と植樹本数の全リスト、それから日本及び世界からの宮脇博士追悼のお言葉、世界での追悼記事を収録した一書を作成する予定である。合掌(亮)

12月号目次

■“宮脇メソッド”は世界中で実践されている!
COP26開催都市に、日本に着想を得た森が根づく(kyodo news配信)
土地固有のふるさとの森づくり 藤原一繪

■〈追悼〉立花英裕さんへ D・ラフェリエール

■バディウ哲学への導入にして全体像
哲学の「条件」とは何か 藤本一勇

■現代の「世界史」が生まれる瞬間の記録
パリ日記Ⅱ 1995-2002 山口昌子

〈リレー連載〉近代日本を作った100人93「伊東忠太――「東洋・日本の近代像」を模索した建築学者」 川西崇行
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える9「血圧の表情――町医者の診療メモ」 方波見康雄
    歴史から中国を観る24「蒙古襲来のとき対馬は皆殺しになった?」 宮脇淳子
    沖縄からの声XIV―3(最終回)「消息不明・行方不明」 仲程昌徳
    今、日本は32「クナシリの夜」 鎌田慧
    花満径69「窓の月(8)」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―64「アルキ」 加藤晴久

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