2021年10月18日

『機』2021年10月号

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社主の出版随想

▼早や10月に入った。あと今年も2ヶ月余り。今号は、鶴見和子没15年を特集した。脳出血で斃れられたのが、死の10年半前。10年足らずの間に、『コレクション・鶴見和子曼荼羅』(全9巻・別巻1)、歌集『回生』『花道』『山姥』、石牟礼道子、佐佐木幸綱、武者小路公秀、中村桂子、上田敏、頼富本宏、服部英二、志村ふくみ、金子兜太、川勝平太、大石芳野、赤坂憲雄、松居竜五、西川千麗・花柳寿々紫氏らとは対話で、多田富雄とは対話が叶わず往復書簡で一書にした。その他、単著として、『南方熊楠・萃点の思想』『遺言――斃れてのち元まる』を出版した。「斃れてのち元まる」ではないが、斃れる前より斃れてからの方が何倍にも増して出版がなされた。
▼鶴見和子が亡くなられて行なわれた鶴見俊輔、金子兜太、佐佐木幸綱氏の鼎談『鶴見和子を語る』の中で、鶴見は「この人の学問は全体として、長女の社会学だったと思います」と。留学時代のこと、卒業論文のこと、雑誌刊行のすすめ、父の看取り、舞台での扇子落としなどについて語り、最後に、別世界の和歌と学問について、50年間その和歌を捨てたが、斃れた時その和歌が噴出してきた。「和子は、紀貫之の歌の理論、歌は、生きとし生けるものの生きる姿勢の中にあるという伝統に戻りました。歌と社会学は別のものではない」と鶴見俊輔は締め括った。
▼鶴見和子にとって、学問と芸術、それにくらしの中の衣・食・住は、決して別物ではなかった。それが、見事に最晩年の10年間に統合されていったのではないか。鶴見和子さんの没15年を振り返りつつ。合掌。(亮)

10月号目次

■今、没15年にして鶴見和子を憶う
着物から見る内発的発展 田中優子

■心性史の到達点『感情の歴史』全三巻完結!
感情の支配 J―J・クルティーヌ

■本誌好評連載の単行本化、遂に刊行!
いのち愛づる生命誌 中村桂子

■都市計画の大家による『都市と文明 Ⅱ』刊行!
革新はいかにして生まれるのか P・ホール

〈リレー連載〉近代日本を作った100人91「知里真志保――アイヌ学者瞋恚のアイヌ学」 荻原眞子
〈連載〉「地域医療百年」から医療を考える7「死の臨床と町医者」 方波見康雄
    沖縄からの声XIV―1(初回)「沖縄のちむぐくる(心)」 仲程昌徳
    歴史から中国を観る22「満洲文字とモンゴル文字の起源は西方」 宮脇淳子
    今、日本は30「渡嘉敷島」 鎌田慧
    花満径67「窓の月(6)」 中西進
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―62「孔子学院」 加藤晴久

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