2021年02月24日

『機』2021年2月号

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社主の出版随想

▼1月末に札幌に行った。なかなかフライトの目途が立たず4時間余り待たされて、ようやく離陸した。が、東京に引き返すことはあるとのアナウンスもあった。1時に飛び立ち3時前に、激しい吹雪の中、ともかく新千歳空港に着いた。夕方からアイヌの集会がある。先頃製作した「シマフクロウとサケ」の映画の札幌での初自主上映と詩人の宇梶静江さんを囲むシンポジウム。このコロナ禍の中、主催者は集客を心配していたようだが、開演の時間が近づくにつれ、会場は予定以上の人で埋った。映画も万雷の拍手、終始参加者の熱気に包まれた中での2時間半だった。後半のトークの会も、石井ポンペ、結城幸司、原田公久枝さんらアイヌの軽妙酒悦な語りと演奏で、今アイヌの人びとが、何を考え、何を訴えようとしているのか、が明かされる会になった。これからこのアイヌの方々が持っているアイヌ力をいかんなく発揮されることを期待したい。
▼想田和弘監督による“観察映画”「精神0」を観た。昨春の封切予定がコロナの影響で延期されていた。13年前の「精神」に次ぐ第2弾。因みにこの映画は、最近ナント三大陸映画祭グランプリ「金の気球賞」を受賞した。主人公の精神科医、山本昌知医師が、病院務めを辞め、自ら一軒家を借り、開放された精神医療を施しておられた。一昨年年齢のことや諸事情で辞められた。それを機に想田監督が前作の続篇として、山本医師夫婦の日常と患者の心からの叫びを淡々と描いた作品である。音楽や過剰な描写は全くない。まさに“写生”そのもの。被写体は言わずもがな、撮る主体の感性が鋭い。2時間を超える作品だが、観客を退屈させない力をこの映画は持っている。
▼安野光雅画伯が亡くなられた。いつも皇居で、皇后様(当時)のお誕生会の席でご一緒した。それ程深いお話はできなかったが、小社の本への熱い眼差しを忘れることができない。「宮脇方式」で作られた和久傳の森に、「森の中の家   安野光雅館」が建てられている。今度ご一緒しましょう、というのが最期のお別れの言葉になった。何ともいえないあのパステル調の優しい画が好きだった。合掌。(亮)

2月号目次

■〈特集〉故・森繁久彌さんの予言
アニサキス 森繁久彌
森繁久彌さんの予言 桑原聡

■大規模なワクチン接種が始まる今、必読の書
ワクチン いかに決断するか 西村秀一

■経済は、生命をどう守るのか!? 緊急出版!
パンデミックは資本主義をどう変えるか R・ボワイエ

■米アカデミズムは今、中国をどう見ているか
いま、中国の何が問題か? M・ソーニ

■新渡戸稲造と渋沢栄一 草原克豪

■第16回 河上肇賞 受賞作決定

■〈寄稿〉今、なぜブルデューか?
『グロテスク』と『ディスタンクシオン』 加藤晴久
教育における不平等 宮島 喬

〈リレー連載〉近代日本を作った100人83「石黒忠悳」 笠原英彦
〈連載〉歴史から中国を観る14「遊牧民の戦争」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅺ―3(最終回)「「夢幻琉球・つるヘンリー」から」 ローゼル川田
    今、日本は22「人間尊重主義」 鎌田慧
    花満径59「高橋虫麻呂の橋(16)」 中西進
    アメリカから見た日本14「破滅的前大統領の後始末をする就任式」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―54「マルタ産本マグロ」 加藤晴久

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