2020年03月25日

『機』2020年3月号

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社主の出版随想

▼新型コロナウイルスの影響が世界に静かに拡大してきている。まだまだ感染者や死者は、100年前の「スペイン・インフルエンザ」に遠く及ばないが、パンデミックになる恐れもある、とWHOは、警告を発している。この生物でもなく無生物でもないウイルスという存在は、細胞に吸着すると増殖を遂げていくという厄介な代物である。


▼人間が“産業革命”以降、なしてきたことは、自分たちが生息している地球の破滅につながるかもしれない。「快適さ」「便利さ」を追求し、“開発”という美名で環境破壊を繰り返してきた。その300年足らずの歴史の中で、人間は何を生み、何を育ててきたのだろうか。侵略、略奪、破壊……の連続が、今日なお続いている。感染症と人間の壮絶なる闘いの歴史の中で、ウイルスもまちがいなく成長・発展してきたのだろう。


▼「細菌の発見」もたかだか200年前に顕微鏡が発明されてからのことだ。この細菌学に貢献したのは、“近代細菌学の祖”“感染症研究の祖”といわれるロベルト・コッホだ。まだこの細菌学が誕生して150年。コレラ菌やペスト菌が発見されてまだ140年にもならない。このコッホの下に、日本から1890年前後に、北里柴三郎や後藤新平が留学した。北里は、帰国後、後藤や福沢諭吉の助力で伝染病研究所を作り、世界に名を残す仕事をした。後藤は、日清戦争後の帰還兵23万人の検疫という大事業をなした。コレラの上陸を阻止するために、友人、北里の力も借り、約3ヶ月間、45日不眠不休の大事業。このことが、世界を驚かせ、中でもドイツ皇帝ヴィルヘルム2世から「日清戦争後の検疫の手際には感服した」との大讃辞が送られた。


▼世界中の近代化。特に人口の40%以上を占めるアジア地域の近代化の凄まじさの中で、地球の生態系はすっかり狂ってしまったようだ。化石燃料の使用過剰による温暖化は、いまだ止まることを知らず、異常気象や大洪水などが年々頻繁に起きて来ている。こういう中、今回のウイルスの“変異”が心配である。専門家がいうように、この4月あたりがピークで、この新型コロナ騒ぎも収まってくれればいいのだが。(亮)

三月号目次

■稀有な比較文学者の業績と人柄を偲ぶ
生涯の友、芳賀徹に捧ぐ 平川祐弘

■水俣病被害は、社会的にも濃縮し続ける
生き続ける水俣病 井上ゆかり

■“近代”を批判的に思考してきた著者の到達点
世界像の大転換 北沢方邦

■現在の『歎異抄』解釈を覆す
中国人が読み解く『歎異抄』 張鑫鳳

■「怨恨と復讐」に抗する「共苦」の文学
高橋和巳論 清眞人

■雑誌『兜太』第4号(最終号)刊行
前をゆく2人――龍太と兜太 宇多喜代子

■〈石牟礼道子さん三回忌の集い〉報告

〈リレー連載〉近代日本を作った100人72「山県有朋――近代日本の安全保障に果たした役割」 伊藤之雄

〈連載〉今、日本は11「国家と家族」 鎌田慧
    沖縄からの声Ⅷ―1(初回)「組踊上演300周年」 高良勉
    花満径48「高橋虫麻呂の橋(五)」 中西進
    歴史から中国を観る3「中国史の時代区分」 宮脇淳子
    アメリカから見た日本3「トランプのアメリカ社会と日本」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―43「自宅で母を看取る」 加藤晴久

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