2020年01月21日

『機』2020年1月号

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社主の出版随想

▼今年も新しい年が明けた。暮れから久しぶりにインフルエンザに罹りなかなか復調しなかったが、仕事始めにはなんとか体調が戻った。今年は、創業三十周年の年。この大変な時代に起業し、多くの方々に支えられて何とか継続して書物を出版できてきたことに感謝申し上げたい。一口に三十年といっても、出版業界にとってこの平成の三十年間ほど厳しい変化のある時代はなかったのではないか。印刷からみると、活版の時代は終わりを告げ、電算写植、コンピュータの時代へと変化し、今や手書きの原稿は、一割はおろか数%に過ぎない状況になった。あと数年内には、完全に無くなるだろう。このハードの変化によって、印刷業界は翻弄されてきた。 出版業界では、流通・小売面の劣悪化、倒産があげられるだろう。本が売れない状況からどうしたら脱出できるかを、出版界全体で総力を上げて議論しなければならない時が来ている。

▼快適で便利な社会を求めて人類は生きてきた。二十世紀の後半には、そのマイナス面が沸々と湧き起こってきた。しかも、科学技術の進歩で、その極限まで突っ走ってきた。我々人類を取り巻く自然環境は、その生態系が今や崩れ始め、予測のつかない想定外の事故が頻繁に起こるようになってきた。「地球は病んでいるよ」「地球は悲鳴を上げているよ」と少数の人が声を上げても、「資本主義社会」はピクリともしないで前進する。前進こそが与えられた宿命であるかのように。昨年だけを見ても、自然災害の規模、回数はこれまでとまったく違う。地球の温暖化によって、これからのわれわれの生活は、どう変化を余儀なくされるのだろうか。専門を横断する科学者たちの真剣な討論の場を期待したい。

▼前世紀は戦争の世紀だったが、すべてのメディアは声を揃えて“二十一世紀は平和の世紀”と唱えた。ところが、二〇〇一年秋には、九・一一事件が起こり、戦争に突入した。爾来この二〇年、戦争は止まることを知らない。核戦争になると、この地球上の生命体はすべて死滅するだろう。先日初来日したローマ教皇フランシスコは、この核使用の危機を世界に訴えた。核の軍事利用の最初の被災国であり平和利用の事故を起したわが国は、核の選択をどうするのか?   原発事故後も原発を稼働させ、これからも原発稼働への道を歩もうとする政府、財界の考えを明確にしてもらいたい。又、廃炉への道を選択するにしても、そう簡単ではない。想像不可能な費用が発生する。しかし、国家のエネルギー政策として、この核の平和利用をどうするのかを明確にしないと国の将来が見えてこない。

▼今最も大切なことは、日本が一国家として、これからどういう道を選択しようとしているのか、次世代に何を遺そうとしているのか、を明確にすることではないか。負の遺産ではなく。そして一人一人の日本人が、自治的自覚をもって、世界に恥ずかしくない誇りを持った人間として生きていくことではなかろうか。今年を期待したい。(亮)

一月号目次

■〈特集〉首里城焼失への憶い 川満信一 安里英子 金城実 海勢頭豊

■琵琶湖の百倍のアラル海は、なぜ消滅したか 消えゆくアラル海 石田紀郎

■ブルデュー『世界の悲惨』第Ⅱ分冊より 「国民戦線」の女性活動家の声 F・マトンティ

■「中村桂子コレクション」第4回配本 読む人と書く人の対話 村上陽一郎

■「公共」とは何か? 公共論の再発見 東郷和彦

■第15回 河上肇賞 受賞作決定

〈新連載〉アメリカから見た日本1「敬語から見える日本人の思考法」 米谷ふみ子

     歴史から中国を観る1「中国人とは誰か」 宮脇淳子

〈リレー連載〉近代日本を作った100人70「吉田松陰――地方幽囚者の思索」 桐原健真

〈連載〉今、日本は9「視えない戦闘機」 鎌田慧

    沖縄からの声Ⅶ―2「なぜ首里城は燃えたか?」 石垣金星

    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―41「フランシスコ教皇の決断」 加藤晴久

    花満径46「高橋虫麻呂の橋(三)」 中西進

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