2011年10月01日

『機』2011年10月号:誰がどのように除染するのか 山田國廣

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深刻な汚染から逃れるには
 福島第一原発の事故によって大量の放射能が福島県だけでなく、周辺の地域にばらまかれた。福島市、郡山市などのように三〇万人を超える大都市がこれほど高いレベルの放射線にさらされたのは歴史上はじめてのことではないか。事故から半年以上経過した九月段階でも、放射線の影響を受けやすい子どもたちが被曝生活を送っている。
 四月後半、福島県内の学校グラウンドの放射線レベルが公表された。福島市中心部の小学校のグラウンド一センチメートルの高さで6μSv/hを超えているところが三カ所もあった。伊達市、郡山市などの学校も軒並み3μSv/hを超えていた。このデータを見て驚愕した。学校グラウンドで起こっていることは家庭でも、児童公園でも、通学路でも同様ではないか。これは、避難するか、除染するしかない。
 除染の専門家などいるはずがない。私は「放射能除染・回復プロジェクト」を提唱して、五月から毎月、民家の除染モデルを構築するため福島市で活動を開始した。除染活動に関しては、以下のような原則を打ち出した。
 【1】 放射性物質を土壌、水、大気中に拡散させないで、可能な限り汚染場所から剥ぎ取る。
 【2】 除去された放射能汚染物質は東京電力が引き取り、最終的には福島第一原発へ戻し除染に要した経費は東電および日本政府が補償する。
 八月はじめに、プロジェクトは、エントロピー学会ホームページで除染マニュアル(第二版)を公開した。そして九月現在は、より充実した内容の第三版公開にむけ準備中である。

政府の対応の遅れと不適切
 七月段階まで、政府もマスコミも、「福島第一原発の収束」に集中していた。しかし八月に入って「除染が大切」と言い始めた。半年間の遅れによって、子どもたちが被曝し、放射能は拡散し、食品汚染が広域に広がってしまった。結論的に言うならば、収束を待たずに除染すべきであった。
 経済産業省の原子力安全・保安院は、八月二六日になって原子力災害対策本部が決定した「除染に関する緊急実施基本方針」を公表した。年間二〇mSvを超えている避難地域については、国が責任をもってモデル事業を実施して技術や安全性を確立し、主体的に除染を実施する。年間一mSv~二〇mSvの間の地域では、コミュニティー単位での計画的な除染が効果的であり、市町村が除染計画を策定し、国は円滑なその実施を支援する、と説明されている。
 その政府方針における除染方法の中心は、放射能を拡散させてしまう圧力洗浄やウェザリング(雨風による自然減衰)と称する自然拡散である。日本原子力研究開発機構(原研)が伊達市で実施している圧力洗浄などを使用する方法が除染モデルになっている。

一刻も早い除染を
 本来は、住民が電話一本かければ、東電の除染チームがかけつけ除染し、除去物は東電へ引き上げるのが筋ではないか。東電の責任が問われず、原子力を推進してきた原子力安全・保安院が除染の基本方針をたて、高速増殖炉「もんじゅ」を推進してきた原研が除染モデルを構築している。これは「原子力推進の構図」と同じである。
 原子力安全・保安院や原研が、適切で効果的な除染ノウハウを知っているとは思えない。ノウハウは企業や民間研究機関などにある。子どもたちの被曝を避けるため、ここは一刻も早く市民、企業、自治体、政府そして研究者が総力をあげて除染に取り組むしかない。

(やまだ・くにひろ/京都精華大学教授)