2010年10月01日

『機』2010年10月号:21世紀の全技術を徹底検証する 井野博満・佐伯康治

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「テクノロジー信仰」からの脱却
 第二次世界大戦後の物不足の荒廃した日本を復興させ、さらに高度経済成長をもたらしたのは、一連の技術の発展によるところが大きかった。水俣病や石油コンビナート公害などの負の側面を知りつつも、われわれの多くは物質的豊かさと経済の成長を享受した。このような戦後六五年の歴史体験は、技術の発展や開発は"基本的にいいことだ"と考えることを常識化した。「テクノロジー信仰」ともいえるものである。

現代技術が招来した世界
 現代技術は、化石燃料と材料資源の大量投入を前提として、さまざまな分野でいちじるしい発展をとげた。その結果、もたらされたものは何か。
 第一に、自然環境破壊の激化である。公害の発生は、いまもって世界各地域の環境を破壊しつつあるが、さらに進んで、酸性雨、熱帯雨林の減少や砂漠化、海洋の汚染、野生生物種の激減、など地球全体の環境破壊が深刻となっている。「地球温暖化」のみが問題なのではない。経済発展を口実に持ち込まれた「開発」は、人びとの伝統的な生活と文化を破壊し、世界の貧困と格差は拡大しつつある。世界各地からの自然と人間の悲鳴が聞こえるようだ。
 第二に、大量生産―過剰消費で豊かさを築いてきた先進国(世界人口六八億人中のおよそ一〇億人が該当)に続いて、発展途上国の中でも大人口と広大な国土をもつBRICs諸国(ブラジル・ロシア・インド・中国、二九億人)、そしてASEAN一〇ヶ国(インドネシア・タイ・マレーシア・フィリピン・ベトナムなど東南アジア諸国、六億人)などが豊かな経済社会を目指して高度経済成長中である。このままでは近い将来にエネルギーや各種資源の枯渇に遭遇することは自明である。また、これら資源を大量に消費することは、地球の環境負荷をさらに急速に増加させる。こうした状況下にある世界を「持続可能な社会システム」だということはできない。
 第三に、現代の技術進歩は、人間のコントロール能力をすでに超えているのかもしれない。核エネルギー技術、遺伝子操作技術、コンピュータ技術などが人間と社会に与える影響は予測不能であり、想像を超えたおそろしい世界の到来を予感させる。

技術と社会の根底からの改革
 こうした事態に直面して、われわれはまず、現代技術の全体像をつかむことから始めなければならないと考えた。巨大化し、複雑化し、細分化されてきた現代の技術を目の当たりにして、もう一度、技術を根元的に見直すなかから、個々の技術のもつ矛盾・問題点を詳しく分析し、さらにそれら技術と人間・社会との関係において生じる問題の諸様相を総合的・体系的に解明せねばならないと考えた。現代テクノロジーの本質を探り、全技術を検証したい。
 本書(『徹底検証 21世紀の全技術』)は、企業のなかで実践をとおして技術の現実をつぶさにみてきた技術者たちを中心とした共同討議・共同執筆によって生まれたものである。日ごろ社会的に沈黙したままの技術者の主張がこのような形で伝えられるのは初めてのことではないだろうか。
 「世界全体の人間が本当に幸せになるための技術」と「われわれの子供や孫の世代が大きな危機に苛まれることなく生きて行けるような人間社会と技術との関わり」はどのようにして可能であろうか。おそらくはこれまでの現代技術の常識や前提を覆し、いままでとは違った方向へ転換することしかないだろう。
 もちろん、本書が提起する問題は、技術のみによって解決されるものではない。それは社会のありようと深く関わっている。持続可能な未来を切りひらくためには、根底からの変革が必要である。社会自体がそれを求められているが、技術はその重要な一翼を担っている。


(いの・ひろみつ/金属材料学)
(さえき・やすはる/応用化学)