2008年01月01日

『機』2008年1月号:赤ちゃんはコトバをどのように習得するか B・ド・ボワソン=バルディ

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nfantとchild
 言語の世界へのコドモの参入はこの上もなく重要なステップである。ラテン語のinfansという単語の語源的意味(否定の接頭辞inと「話す」の意味の fari)によると、それの転化したenfantは「話さない者」ということになるはずだが、フランス語のenfantにはこの意味は残っていない。ラテン語のinfansはもうひとつの語puerと対をなしていた。この語はもう少し年上のコドモを意味した。英語では、新生児と0歳児のコドモを意味する infantと、もっと年上のコドモを指すchildの2つの単語として区別が残っている。英語には2つの単語があり、まだ話さない幼児期と話す幼児期という異なる時期を指す。

コトバの獲得に関する認知的アプローチ
 infans(話さないコドモ)はいくつかの段階を経て話す主体になる。すべての人間が持っている言語の初期能力がどのようにして順次的な、そしてあらかじめ決定された諸段階として組織されるのかを――出生時から文〔phrase/sentence〕をつくり出す時期までコドモをフォローすることで―― 明らかにすること、これが本書の目的である。それはつまり、コトバの獲得に関する認知的アプローチということである。このアプローチでは「生得的知識」(これは部分的には実験によって解明できる)を基礎とするコトバの習得をつかさどる諸手順〔procedures/procedures〕の研究が中心になる。まずはじめに、音の言語関与的特徴を弁別してカテゴリー化するのに役立つ指標をコドモが聞きわけるのを可能にする先天的能力(プレディスポジシオン)を検討する。次に、コドモが言語音から構造と意味を抽出する間に、選別過程が喃語のなかでどのように顕在化するかを示すことにする。意味と音形が結びついた単語が発せられるようになると、個人的選択の多様性と、言語へのアクセスにおける個々の言語と文化の影響が現れてくる。最後に、コドモが母語に特有の文法を特徴づけるパラメータを固定し始めるようになる過程を明らかにする。コトバが発達していく社会環境、そして、その環境においておこなわれる、あらゆる種類あらゆる性質の情報の交換にも言及することになるであろう。

鋭く、微妙で無駄がなく、そして多様な
 これは複雑な仕事である。それというのも、コトバも言語も複雑なものであるからだ。また同一の現象をいくつもの仕方で説明することもできるからである。さらにコドモ自身が複雑であり、また急速に変わるからである。新生児が音を弁別してカテゴリー化する手順は、コドモがそうした音を分節する手順と異なるし、また、コドモが単語に意味を付与して発出する手順とも異なる。さらにまた、環境も複雑である。文化、個々の言語の構造、情報伝達の様式、親たちの習慣、社会化の仕方によって環境は様々に異なるからである。
 どのようにしてコドモがコトバを獲得するかを理解すること、最初の音の誕生に立ち会うこと、その音が調整された連続体に組織され、そしてシラブルに構造化され、最後にオトナが単語や表現として聞くことのできる音形が出現するのを観察すること――すべては錯覚や驚き、間違い、驚嘆なしでは進行しない。新生児の処理能力はそれほど鋭く、コドモが分節してカテゴリー化する手順はそれほど微妙で無駄がなく、そしてコドモがコトバにアクセスする経路はそれほど多様なのである。

(Benedicte de BOYSSON-BARDIES/言語学者)