2007年12月01日

『機』2007年12月号:“あなたの写真は歴史なのよ” 大石芳野+鶴見和子

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●フォトジャーナリズムの第一人者と、昨年急逝した国際的社会学者との徹底対話

鶴見 これだけ重大な人類の歴史に立ち会っているわけよね。そして一人一人が違う体験をしてるわけよね、同じ事件があっても。いろんなそれを、あなたが写していったら、そしてそれをまたいろんな人が見ていったら、歴史における意味というものはいろいろと違ってくるわね。


大石 そうですね。


鶴見 からもっと深くというか、広く、意味が積み重なっていくわけね。そこがおもしろいのね。で、あなたが写真展をなさると、いろんな感想が出てくるでしょう、見た人から。それがあなたにみんなはね返っていく?


大石 みんなとは言えないですけれども、はね返ってきます。


鶴見 なるべくたくさんはね返っていくと、今度は次にあなたが写すときにいくらか役に立つ?


大石 おおいに立ちます。それはとっても反省の材料にもなります。プラスとマイナスがありますから、プラスは大事にしよう、マイナスはプラスに転化しようと。


鶴見 それはそうでしょう。


大石 写真展はとてもいい機会になりますね。それと生の写真を見てもらったときと、写真集のようになっているものを見てもらったときとは違うんです。


鶴見 違うでしょう。一枚一枚を見るときとね。


大石 写真って一枚一枚だと見る人が向かい合って対話することができる、写っている人と。私のはドキュメンタリー写真ですから、キャプションをつけます。それを読みながら写真を見て、そして本人が自分なりに想像力をふくらませて、一生懸命に対話してくれるんです。それを後ろの方から眺めていて、こちらもいろいろ考えさせられます。


鶴見 だからあなたの写真は歴史なのよ。歴史の積み重ねの、それぞれの層なのよ。だから歴史における重層性の、それをあなたが写真で写しているんだと思う。それも同じ事件について、たくさんの人の体験をね。


大石 そうですねえ。と同時に、結局、私が生きているのと同じ時代に生きているということです。


鶴見 同時代性ね。

(おおいし・よしの/写真家)
(つるみ・かずこ/社会学者)