2007年10月01日

『機』2007年10月号:地方をどうするか/東京をどうするか 藤森照信×御厨貴

前号   次号


●明治期の国家形成を地方経営と首都計画の2つの視点から書き下ろした名著。

地方をどうするのか
御厨 戦後金科玉条としてきた平等主義が行きつくところまで行きついて、タテマエでは自治体は平等だと言わざるを得ないけれども、東京都と沖縄県とか島根県、鳥取県とが同じであるわけがないんです。本当の意味で分権するのだったら、自分のところはこれが売りですと、それぞれ違う特色を出していくしかない。だから、貧乏県が出ても当たり前、そのかわり富裕県が出ても当たり前。そういうことが本来議論されるべきなんです。


藤森 地方でもう1つの問題は、中心が空洞化するんです。中心はシャッター通りなのに、周りには結構住宅ができている。空洞を埋めないで、周りの田んぼを食って、どんどん家ができている。
 何で中心部は空洞化しているかと思ったら、空洞化しても土地の値段があまり下がっていないんですよ。土地というものが、本当に資本主義の需要と供給の原則に従うのであれば、買い手のつかない土地はただになる。だけど、需要がないのに地方都市の中心の土地はほとんど下がらない。路線価も下げていない。下げると税収ががばっと減るから。
 政策で何とかなると思うんですが。町の本来のところに人がちゃんと入ってくれば周りの田園は残せますからね。あれを見ていると、行政に携わったら本当に毎日気持ちが暗くなると思いますよ。

憲法改正より首都改革
御厨 いまの流れでは最終的に道州制導入が有力になっていますが、道州制導入のときには東京は絶対変わらなければいけない。東京が他の県と一緒になって1つの州になるわけにいきませんから。そうすると、初めてそのときに東京をどう位置づけるかという話が出てくる。だから道州制の問題は、東京改革を立点にして僕はきっちり議論した方がいいと思っています。憲法改正より、首都改革、東京改革の方が先ですよ。


藤森 20世紀が国土をどうするかということだったとすれば、21世紀は東京をどうするかでしょうね。明治以降は、国土をどうするかという器の方も行政も全部内務省がずっとやったけれども、そういう内務省に当たる「首都庁」みたいなのが必要でしょうね。


御厨 90年代一時期はやった「首都移転」構想を見ると、本当にそう思いますね。あれは首都ではなくて首都機能移転で、各省庁が1つずつ、自分のところの要らない役所を東京都の外に出しただけで、結局あれはものにならなかったでしょう。


藤森 内閣の中に東京相という大臣をつくって、東京の行政は内閣の中の1つにする。国土交通省の横に首都庁、国土交通相と並んで東京相をたてる。明治のころは、それに近い。内務省の何番目かが東京府知事でしたものね。そうすると、わかりやすい。


御厨 地方と首都の両方を考えないといけないですね。そういう時代になりました。特に首都については、地方を考えるのと同時に考えないといけない。今は首都をどうするかはまったく考えていませんから。

(ふじもり・てるのぶ/東京大学教授)
(みくりや・たかし/東京大学教授)