2007年06月01日

『機』2007年6月号:“後藤新平の世界”完全攻略本! 御厨 貴

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複合的かつ複層的な“後藤新平の世界”
 『後藤新平大全』をおくる。大全とは1冊ですべてがわかる仕組みになっている本のことを言う。後藤新平という人物にとっては,大全という形式の本が待たれていたと言ってよい。なぜか。それは余りにも活動範囲が広く,思わぬ出会いがまた次なる出会いを生みしかもそれが水平方向,垂直方向に同時に連なって,あっという間に人と仕事と組織の連鎖を形作っていくからだ。
 後藤のその仕事の特色は,プロジェクト型と言うにふさわしい。後藤のその出会いを描くのには,司馬遼太郎風ではなく,山田風太郎風が最もふさわしい。そうであれば,“後藤新平の世界”を単に一人の偉人伝を描くように,クロノロジカルに一本の幹が苗の時代からスクスク育っていくようには書けない。複合的かつ複層的な“後藤新平の世界”は,かくて大全を待って明らかにされることになる。 

『後藤新平・解体新書』
 同時にこの大全は,8冊に垂んとする『正伝後藤新平』を読み進める上での導きの書,よきガイドラインたらんとする。昭和初めの旧版ほどではないが,今回の決定版にしても,巻数の多さと各巻の厚さの前に,いかなる読書家であろうとも,まずは読破意欲をそそられぬことは,疑いえない。一度開いた本をいつのまにやら閉じて書架に戻したが最後,後藤新平の伝記は書架を飾り決して繙かれることのない立派な装丁のシリーズとして重きをなすことになる。
 だったら教科書ガイドならぬ読み解き方を示唆するこのガイドラインの本は必携である。それと同時に,この大全は,『後藤新平・解体新書』の役割を果たし,“後藤新平的世界”の要素分解の機能を示す。逆に言えば,初心者が『正伝後藤新平』の航海中に何が何だかわからなくなったら,大全にあたれば,一つの読破方向を示してくれる。そこで自らの位置を確かめ安心できる。そうではなく余裕綽綽のベテランには,大全を攻略することから,『正伝 後藤新平』をまったくこれまでとは異なる独自の読みの世界として構築する楽しみが与えられる。
 ここまで説明してくれば,もう賢明なあなたはお分りであろう。『後藤新平大全』は,ゲームの攻略本と同じ意味を持つわけだ。その点で老若男女すべての層に“後藤新平的世界”を理解してもらう仕掛けがここには込められている。

浮かび上がる“後藤新平の世界”
 『後藤新平大全』はゲームの攻略本のように,『正伝後藤新平』全巻と共にあって,この『正伝』を,いやそれを超えて“後藤新平の世界”そのものを,読者一人一人のものにしていくための本である。この本をボロボロになるまで使い込んだ時,あなたは世紀に再生すべき“後藤新平の世界”がくっきりはっきり浮かび上がってくる様子がわかるに違いない。

(みくりや・たかし/東京大学教授)